南の庫から 番外編 阿蘇をめぐる鉄路'71年4月・'73年5月


九州島自体が、阿蘇山を核とした火山島と考えることもできるぐらい、九州と阿蘇山は切っても切り離せない関係にあります。また、九州有数の観光地としても知られています。標高の高さではなく、裾野の広がりという意味では、日本最大の火山である阿蘇山。そのスケールの大きさは、火山の外輪山の内側に鉄道が走っている、というところからもうかがえます。カルデラを東西に貫く、豊肥本線。外輪山に沿って走る、高森線と高千穂線。火山の中を走るだけあって、豊肥本線の急勾配、高森線・高千穂線の高橋梁と、いずれも特色のある路線になっています。これらの路線は、男気を感じさせる「陽」な線区の多い九州の中では、独特の翳りを感じさえてくれます。個人的には、あまり好きな線区ではなかったのですが、お好きな方もけっこう多いようです。今回は、この阿蘇山のカルデラをめぐる、3つの路線にスポットライトを当ててみました。



まず最初は、豊肥本線から。おなじみ、立野のスイッチバックの転向線を登ってゆく貨物列車。立野のスイッチバックは、中間部分が極めて長く、都市部なら一駅分といってもいいくらいあるのが特徴です。旧国鉄線では、珍しい構造ですが、こういう仕掛けにしないと登れないぐらい、山の傾斜が急だったということも言えるでしょう。牽引機は、熊本機関区の59670号機。高原は春野菜のシーズンか、通風車ツム1000形式が、2輌連結されています。出荷は熊本経由で行われますので、これは積み込みのための空車の回送です。段々畑や、まばらな木の茂みがいかにも模型的ですが、左方にチラリと見える、熊本方面の線路も、そのイメージを強めています。'71年4月の撮影です。


立野駅で発車を待つ、高森線、高森行きの混合列車。機関車は、当時熊本機関区にいた2輌のC12形式、222号機、252号機のうち222号機。九州のカマにしては珍しく、他地区からの配置移動ではないのに、LP405型シールドビーム装備というのが特徴でした。当時のC12は、高森常駐で運用されていたので、手数が足りないのか、この時期の九州のカマとしてはちょっと手入れが良くないですね。サビも浮いていますし。それでも、熊本区の特徴である、ナンバープレートへの緑の色さしは、なんとか見てとれます。この日は春休み中ですし、学生カバンも持っていないので、全く私用の外出と思われるのに、女子校生(一発で変換するな、コラ(笑))がセーラー服を着ているのも、いかにも昔の田舎を思わせる光景です。直射光が来ていないので、なんかモノクロみたいなトーンですね。これも'71年4月の撮影です。


今度はうってかわって、今はなき高千穂線です。高千穂線の白眉といえば、日本最高高度を誇った、高千穂橋梁。その高千穂橋梁を行く、キハ20系3連です。日之影線から高千穂線に延長された区間は、最初から無煙化されていましたので、SLブーム当時は、わざわざ撮影に行くヒトは、あまりいませんでした。では、どうやって撮影したのかといえば、これは実は、高校の修学旅行の途中。高校の旅行委員といえば、「鉄」仲間の指定席。職権を濫用して、いろいろなところで鉄分を補給できるよう、仕組んだ計画を立てたのです。これも、日本一高い橋を見学と称して、ここでバス休憩時間を設けるとともに、ちゃんとその時間も、列車がやってくるタイミングとあわせた次第。まあ、世を挙げてSLブームで、鉄分が高かった時代ですから、一般のクラスメイトからも、それなりに面白がられたからできた企画とはいえます。もっとも、これだけでなく、宮崎では団体を抜け出して、もろに撮影に行っちゃったりしましたが。'73年5月の撮影です。


最後は、高千穂線のカットの次の日。したがって、このカットも'73年5月の撮影です。バスで阿蘇山を下り、熊本経由で博多まで向かいます。その途中で捉えた、立野駅のワンシーン。熊本に向かう貨物列車の牽引機は、すでにDE10になっています。豊肥本線の完全無煙化は、1974年4月24日のダイヤ改正ですが(高森線用C12の回送は除く)、すでにこの時点で全検切れのカマを置き換える形で、DE10形式が投入されていたことがわかります。このDE10、このぐらい小さいカットでも、なんかピカピカしていて、新製投入直後ということが見てとれます。もちろん現在でも立野駅はありますし、スイッチバックも顕在です。しかし今となっては、ディーゼルでも何でも、ローカル線の貨物列車というのは、記憶の中だけにしかないものになってしまいました。個人的には、やはり鉄道が地方のライフラインを支えていた時代、というものに対して、一番ノスタルジーを感じますね。車扱貨物を、人力で荷扱いして間尺にあっていた時代。やはり鉄道が輝いていたのは、そういう時代背景があってのことなのでしょう。



(c)2008 FUJII Yoshihiko


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