コンテンツビジネスのツボ





素人さんにはいまだに勘違いが多いようだが、金と時間と人材をふんだんにかければ、かならずいいコンテンツができるというワケではない。純粋な芸術作品ならいざ知らず、映画にしても、放送番組にしても、それぞれビジネスというバックグラウンドをもっている。そういうビジネスという面、商業性という面を持った作品では、そう簡単に良し悪しはきまらない。評論家ウケがいいのが良い作品ではなく、その作品を多くのヒトが見てくれ、作品に対して出資してくれた投資家に、リターンが出せてはじめて「良い作品」ということができるからだ。

NHKのような、予算主義の組織が生み出すコンテンツの問題もここにある。確かにそれが良質かつ商業的成功をおさめる作品を結果的に生み出すこともあるとは思うが、独善的な作品を作り出すことのほうが多い。晩年の黒沢作品ではないが、マニアや評論家、業界内で評価の高い「良い作品」であっても、リクープがついてこないのでは、コンテンツビジネスとしては失格だ。コンテンツというと、ついついそういった作家の視点にたちがちだが、それはコンテンツビジネスとは別の世界だ。リクープを考えない、予算主義の体質からは、いいコンテンツは生まれようがない。

それは、映画にしろ番組にしろ「かければあたる」というような、娯楽に飢えた世の中ではないからだ。エンターテイメント系のコンテンツでは、あてるのが一苦労なのだ。映画でも大作になればなるほど、告知のマスキャンペーンやタイアップを積極的に行い、話題を盛り上げ動員を図らなくては、リクープはおぼつかない。そうそう簡単にはヒット作品は生まれない。コンテンツ自体がいかによくても、それは潜在的なパワーに過ぎず、リクープに結びつけるにはマーケティングが不可欠になる。

抗争が激しいことでは、放送番組はそれ以上のものがある。常に秒刻みの競争にさらされているのだ。その中で高視聴率を得るものは一握り。多くの企画は死屍累々というのは業界の常識だ。もっとも放送番組は制作コストの弾力性が高いため、映画のような大作路線に走らずとも、手軽な暇潰しとして、ローコストな企画でもそこそこ顧客を集めることができる。その分放送番組コンテンツのほうが、ビジネスとしてローリスクなのはいうまでもない。

実はこのように、コンテンツビジネスはコスト弾力性のビジネスでもある。商売というものは必ず一方で収益があり、一方でコストがある。このバランスが利益を生む。儲かるも損するも匙加減一つ。ここにビジネスマンとしての腕の見せ所がある。一見当たり前のことだが、ことコンテンツとなると忘れがちだ。さらにコンテンツビジネスの特徴は、このどちらもが極めて弾力性が高いところにある。見込める収益に見合ったコストに収められれば、必ず利益が出せる。だが、そのバランスを見失っては、得られる利益もみすみす失ってしまうことになる。

ここで大事になるのが、マーケティングの視点とマネジメントの視点だ。顧客の視点に立って、売上をマキシマイズするのがマーケティングの視点。費用対効果の視点に立って、コストをミニマイズするのがマネジメントの視点ということができる。この二つがウマくバランスすれば、かならずサヤが生まれる。その大きさには運もあると思うが、そのプロジェクトを赤字にしないことはハンドリング次第だ。このカギになるのがプロデューサーの力量だ。ギャンブルと投資の違いはここにある。

WOWOWが、当初の拡大指向に基づく大作主義を脱し、すでに獲得した会員にターゲットを絞った、マニア向けのニッチ路線に転換してから、少なくとも単年度黒字は出せる体質を創り出せたことは記憶に新しい。これなどは、コンテンツビジネス、メディアビジネスの本質をよく示している。コスト弾力性の高さを活かして、マネジメントテクニックで黒字を「ひねり出す」。これこそコンテンツビジネスの醍醐味といえるだろう。キャラクターマーチャンタイジングによるライセンス収入まで含めた形で、プロジェクト全体でのコスト管理を行うアニメーション制作なども、典型的なマネジメント主導のビジネスといえる。

ビジネスの世界とは、絶対善がない世界。売上が原価を相対的に上回れば成功だし、下回れば失敗ということになる。結果は、戦略と判断によりいかようにも変わり得る。せっかく黒字のプロジェクトも、まだ儲かると欲を出したときには損益分岐点を越しており、追加コストが丸々赤字ということも良くある。逆に、誰が見ても厳しいプロジェクトを、必死のコストダウンにより、儲けとまではいえないものの、赤字は食い止めた、などということも珍しくない。これが経営判断であり、マネジメントの本質なのだ。

ビジネス界に身を置くものにとっては、当たり前のことだが、学界・官界の有識者の方々にとっては、かなり違う世界のことと映るらしく、未だに理解していただけないことも多い。だがあくまでもコンテンツビジネスはビジネスであり、高尚な芸術作品を作る活動ではない。評価は中身ではなく、銭なのだ。「利益を出してなんぼ」のものでしかない。この掟を理解し、その魔術を自在に扱えるようになったものだけが、コンテンツビジネスで成功を収められることを忘れてはならない。

(98/10/30)



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