虎の威を借る狸





世の中には「社会的に正しい」ということを笠に着て、少数派の相手に対してマウントを取りたがる人達がいる。新型コロナ禍以来話題になっている日本の「自粛警察」や米国の「ポリコレ」は、タテマエの正義や正しさを振りかざす点においては同じ穴の狢である。今まではこういう現象は、「甘え・無責任」な人々が多い日本特有だと思われがちだったが、実はそうではなく、世界中どの国にも同じように見られる現象だというのが、昨今の騒動によりよくわかった。

彼等の特徴は、「自分」が消えてしまっている点にある。彼等には一人称の主語はない。常に「社会が」とか「みんなが」とか「世間が」といったように、ありもしない「公共」を主語にしてものを語るのだ。責任主体としての自分の存在を消すことで、自分は責任を取らずに済まそうとするからこそ、群衆の中に紛れてようとする。そこには社会はあっても個人はない。だから「社会主義」だってワケでもないのだろうが。

実は主義主張とは、自分の好き嫌いに過ぎない。どちらかだけが正しく、どちらかは存在することも許されないということはない。互いに自立して自分というモノを持っていれば、お互いに直接的にぶつからない範囲で違いを尊重し合い、なんとか平和共存の道を探ることは可能である。自分を持っていない上に自分に自信がないにもかかわらず、自分の好き嫌いを押し通そうとするから、公権力を笠に着て世の中を一色に染めようとするのだ。

自分で語れない、自分を主語に主張できないから、あたかも「みんながそうなのだから、こっちが正しい」というロジックを偽造して自分で納得しているだけである。支持率の低い野党がよく主張する、「みんな」とか「国民が」とか「市民は」とかいう実体のない主語は、その現れである。せめて「わが党の支持者は」と言ってもらいたい。こういう発想は、自分一人では何もできない「虎の威を借る狸」であることを、自ら証明しているに過ぎない。

もちろん、思想信条の自由は何よりも大切な人権である。「自分で責任を取るのはイヤだ、だから自分を持ちたくない」というのは、それはそれで一つの考え方だし、そういう生き方を選んでもかまわない。寄らば大樹の陰で生きるのは自由だし、誰もそれを邪魔しようとはしない。ただ思想信条の自由の大前提として、「他の人に迷惑をかけない範囲で」というのだけは守る必要がある。こういう「甘え・無責任」な人達は、その最低限の条件さえ守ろうとしないで、自分の意見だけを主張するのだ。

世の中に「責任を取れる人」と「責任を取りたくない人」が並存すると、当然前者の方が多くのチャンスに出会うことができ成功に繋がる可能性も高いのに対して、後者のやり方だとほとんど進歩がないまま終わってしまうことが多い。これはある意味、自己選択に伴う自己責任であり、甘んじて受け入れるべき結果である。しかし彼らは、この結果責任がついてくるのもイヤなのだ。でも、責任を取っている人がチャンスをモノにするのをみると悔しくて仕方がなくなる。

だからこそ、「自立・自己責任」で生きている人をみると足を引っ張りたくなるのだ。この「成功者を羨んで、足を引っ張ろうとする」態度にこそ、「虎の威を借る狸」の最大の問題が潜んでいる。自分が責任を取りたくないだけなのだから、自分が責任を取らずにいられれば、それ以外のことはどうでもいいはずである。そういう態度をとってこそ、「寄らば大樹の陰」でいても個人の自由の範囲として許されることになる。しかしこういう「自分と違う生き方」をする人を許せなくなった時点で、社会的な迷惑を振りまく存在となる。

昔から日本社会では、こういう人達が多く存在した。忖度しすぎで自主規制したり、自粛警察でおせっかいをやいたりする裏には、この妬みが存在するのだ。何も建設的に生み出さないまま、みんなで仕事をしたふりだけをして、よく頑張ったと傷を舐め合うだけの毎日を送っている人達。日本の組織の生産性が低いのも、突き詰めればここに問題がある。こういう人達の存在自体は構わない。大切なのは、こういう人たちが自分達と違った生き方をしている人々の足を引っ張らないことである。

はからずも、今回のコロナ禍は日本に根強く存在する「甘え・無責任」な人達の構造的な問題点を浮き彫りにした。21世紀の日本社会の活力を再生するには、このような人達が社会全体の足を引っ張らないようにすることが最も大切である。そのためには、彼等がゆで蛙の夢を見れるような社会を目指すしかない。別に汗だけかいて何も生み出さなくても構わない。仕事したふりだけで満足しても構わない。ただ、社会のメインストリームははるか彼方に行ってしまっている。これしか「平和共存」の道はないだろう。


(21/02/26)

(c)2021 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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