コミュニケーション力




最近気になっているのは、どうも世の中でコミュニケーション力の低下しているし、それが色々な問題を起しているのかということだ。というより、いままでコミュニケーション力の重要性をわかっていない人が多かったということかもしれない。自分のいいたいことを相手に伝えるのには、それなりの努力と、それなりの周到さが必要になる。デフォルトで意思が通じるモノではない。至って当たり前のことだが、これをきちんと理解していない人が多いのだ。

昔は、コミュニケーションの努力がそんなに問題にならなかったのも確かだ。言外の言が通じそうな甘えも大手を振って通用したし、幻想の共同体意識を持てたこともあるだろう。それ以上に、新しい概念や難しいニュアンスを語るニーズがなかったのも確かだ。そういう人達同士では、それなりにハイレベルのコミュニケーションがあったのかもしれないが、これは専門家同士の阿吽の呼吸の中でならそう難しいことではない。それが、一般の人も、色々な局面で難しいコミュニケーションをしなくては生活できなくなっている。

このが顕著に現れているのは、ぼくの身近な分野では、音楽、特に楽器関係の領域だ。音楽関係では、もともと感じかたは人それぞれ違うのが基本。これを人に伝えるのは、けっこう骨が折れる作業が必要になる。あるヒトが「これはいい曲だ」といっても、別のヒトが同様の感想を持つ限りではない。そんなことはいくらでも経験しているだろう。しかし、いざ楽器を評価したり、欲しい楽器やアンプ、エフェクターを語る段になると、いかにも安易に考えて発言してしまう人が多い。

太い音、硬い音、といった基本的概念では、けっこう実際にアタマの中にイメージしているモノは違う。もう少し具体的に思える「ヌケのいい音」みたいなモノでも、必ずしも共通の見解が作れるわけではない。それは、各人の過去の経験に大きな差があるからだ。本当に「ヌケのいい音」と聞いたことがないヒトにとっては、コトバに込められた意味はわかりようもない。たとえばヴィンテージの音がどういうニュアンスかは、ヴィンテージを奏いたことのない人に理解してもらうために、非常に努力がいる。それと同じことなのだ。

これが、マニア同士の会話だったり、BBSや掲示板の書き込みだったりする分には、手間こそかかるモノの、それで議論が拡がってけっこう面白いかもしれない。しかし、楽器屋でどういう楽器がほしいのかという相談だったり、もっといい音がほしいというリペアの相談だったりするときには、このディスコミュニケーションは不幸を生む。買ってみたらイメージしていた音と違うとか、金をかけて修理しても、欲しかった音にならないとかいう問題は、その多くがこういうディスコミュニケーションを発端としている。

楽器店の店員や、リペアマンは、それぞれの領域での技術は専門かもしれないが(もっとも、最近では楽器店の店員のプロはあまりに少ないが)、決してコミュニケーションの専門家ではない。だから、目の前に見本になる楽器があって、これと同じ音がほしいとか、これと同じ握りのネックがほしいとか、そういう形でイメージを伝えられる場合ならいざ知らず、コトバでオーダーする時には、かなり注意が必要だ。それは、こういうすれちがいは、はっきりいってオーダーを出す方の問題だからだ。相手は技術のプロなので、的確に説明できればそれに応えられる。しかし曖昧なオーダーでは応えようがない。

何の領域でもそうなのだが、プロフェッショナルな相手に発注するときほど、的確なディレクションが必要だ。発注する側が、ある程度専門的なことまで理解した上で、何を求めているかをきちんと命令する。そして、それがきっちり達成できたかを評価することもできる。ここまでできてはじめて、プロを使えるのだ。少なくともプロの職人を相手にしている業界では、こんなことは常識だ。しかしそうはいっても、業界でもこういうディレクションができない人も大勢いるし、そういう人がトラブルを起していることもまた確かなのだが。

もともと日本人は、なにごとにつけ甘いヤツが多い。基本的に相手に甘えることを前提に行動している。最近では、若い人間ほどその傾向が強い。この問題がコミュニケーションでもあらわになっているということだろう。コミュニケーションというのは、相手がわかってくれる、良きに計らってくれるモノではない。わかってもらう努力をしてはじめて通じるのだ。これがコミュニケーションのグローバルスタンダード。だから、国際性のなさも、外国語力の問題ではない。これもまた、自分のメッセージを的確に相手に伝える努力をしないという、コミュニケーション力の問題なのだ。


(99/12/03)



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