Everything






MisiaのEverythingが大ヒット中である。基本的に音楽なんていうもの、個人の好みの問題だ。自分としての意見はいうものの、他人がどう思おうが、どう音楽と接しようが、それは関心の限りではない。とはいうものの、音楽は文化でもある。そういう「文化としての音楽」という側面がないがしろにされたり、個人の好みというコトバの前に踏みにじられたりするのは、音楽を愛するもの、音楽を表現手段として重視するものとしては、座視するわけにはいかない。ということで、一言、言わせてもらう。これはあくまでもぼくのオピニオンであって、そうでないものが悪いとか、世の中がダメだとか批判しているワケではないことだけは、念を押しておく。

基本的には、ヴォーカリストとしてのMisiaには、表現力があるものと評価している。実際この曲でもAメロは実に表情がある。高い表現力の実力があることがわかる。この人の表現力は、こういう感じで押さえた唄い方をしたときに幅が出てくるタイプだ。いい感じである。さて、続いて若干シフトアップしてBメロに入る。Bメロも、ダイナミックレンジ的にはかなり限界に近くなっているが、まだまだ味わいがある。表情が減ったぶんを気合いで補って、プラマイゼロ。この辺までは、テクニックとしての、パート毎のメリハリと考えればいい。しかし、このBメロの唄い方が、彼女にとっての表現のダイナミックレンジのピークレベルのようだ。

その後にリフレインがくるのだが、これがいけない。リフレインの唄い方となると、もはやガナっているというか、ただどこまで大きな声がでるか張り上げているようになってしまっている。これでは表情も何もない。表現力は皆無。Aメロ、Bメロにあった味わいはどこかに消し飛んでしまった。これでは、明らかに叫びすぎだ。叫ぶのが悪いわけではない。叫ぶのでも、いわゆるシャウト系の叫びなら、それはそれで表現にもなっている。しかし、ただ大きな声を出すというのは表現の対極にある。そしてこの歌の内容やイメージを考えると、そういう「叫び」は表現的に全くミスマッチですらある。

よくテレビのワイドスペシャルで「大声コンテスト」というのがあるが、このリフレインの唄い方はアレと似ている。声のデシベルは大きいが、何を言っているのか、何を伝えたいのか全く声としての中身は消し飛んでしまう。自分でコントロールでき、表情をつけられるレベルをはるかに越えた声を出してしまっている。小さなラジカセでヴォリュームを上げすぎたようなものだ。ヴォリュームが5を越えるあたりからは、いくらヴォリュームを上げても音が割れるだけで、音量、音圧は変わらない。あるいは、昔の学生運動のアジ演説にも似ている。気合いだけはスゴいが、何を言っているのか全く伝わらないし、「聞いてもらおう」という気持ちも感じられない。

声を張り上げたいかもしれないし、大きい声がでているのもわかるが、唄は大声コンテストではない。外人コンプレックス、黒人コンプレックス丸出しとしかいようがない。日本のソウルファン自体、ちょっと変なところがあるのだが、黒人のソウルシンガーでも声量がなく、歌唱の表現力できかせるタイプの人はたくさんいる。ソウル特有の男声のファルセットヴォーカルスタイルなんてのは、敢えて気合いを封印して、表現力できかせるスタイルといってもいい。そのほうが唄の中身が、聞き手の心に伝わるから、そういう唄い方をするのだ。

ファルセットスタイルは、バラードナンバーに多い。それはバラードは、「唄の中身が伝わってなんぼ」だからだ。力任せのバラードなんて、そもそもあり得ないのだ。彼女のこの歌での唄い方では、全くと言っていいほど心が伝わってこない。唄がウマいかどうかは、心が伝わってくるかどうかにある。これなら、安室奈美恵とか浜崎あゆみとかのほうが、よほど唄がウマいぞ。基本的にいまのJ-POPは使い捨ての音楽なので、心に残ったりひびいたりするとマズイからワザと平板に唄っている、といううがった見方もできないでもないがどこかおかしい。

本来なら、Bメロのドライブ感が、リフレインのいちばん盛り上がったところの気合いで、Bメロを現状のAメロレベルのにし、Aメロは、もっとおさえて入ってくるべきだろう。それなら、すばらしいできの唄になるに違いない。こういう唄い方しかできない、お祭りネエチャンみたいな「エセ・ディーバ」なら、毎曲大声コンテストでも仕方がないが。彼女は違う。ちゃんと表現力のある唄い方ができる歌い手なのだ。そして、それは本来バラードむきの唄い方なのだ。キチンと唄えるし、表現力のある彼女が、なんでこんな唄い方をしなくてはならないか。そのほうが売れるからなんだろうけど、どこかリスナーのニーズは変だ。これじゃ音楽はなくなってしまうぞ。


(00/12/08)

(c)2000 FUJII Yoshihiko


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