民主的な大衆







安部辞任の後を受けた自民党総裁選も、麻生氏、福田氏の一騎打ちから、一斉に福田支持へとなだれを打つ流れとなった。今回の総裁選は、ある意味「想定外」の事態に対応するものであり、中継ぎ的要素が大きく、また政策そのものも変えようがないので、それこそどちらになってもそれ程大きくは違わないというのがホンネであろう。ワイドショーとかも、どちらかというと、両氏のキャラクターの違いを楽しむような編集がほとんどだ。

ベースがそうである以上、大勢をキメるのは、「どっちについたほうが得か」という判断にならざるを得ない。福田氏についたほうが役得が多そうだ、とおもったからこそ、みんなそちらになびいただけのことである。理由はどうあれ、民主主義を是とする社会では、多数が支持するほうが正当である。まがりなりにも、多数が支持している以上は、それに対して棹を挿すことはできない。棹を挿すのであれば、民主主義自体を否定するほうが先である。

ところが、大手新聞の社説などでは、この「福田支持」の流れに対して、否定的、批判的な論調が目立つ。いわく、勝ち馬に乗りたがるとか、またもやイメージ先行の劇場型政治とか。全くもって、「ジャーナリスト」の思い上がり。勝ち馬を選ぶのでも、イメージで選ぶのでも、選ぶことにおいては対等である。それが民主主義なのだ。「ジャーナリスト」がいかにスノッブな選良意識を持とうと、民主社会である以上、他人の意識の内側には踏み込めないはずである。

高度成長期以降、日本社会は高度に進んだ「大衆民主主義」社会となった。特に80年代以降、みんながみんな、そこそこ豊かでハッピーな生活が送れるようになると、現状肯定こそが社会の基調となった。日本の庶民は、江戸時代から「甘え・無責任」であった。それは、有責任階級たる武士が存在し、武士の面子を立てている分には、「お上」に甘えられるし、全く責任を取る必要がないことによって支えられていた。この構造は、明治になっても引き継がれた。

この構造は、何らかの形で「武士道精神」を受け継ぐリーダーがいる限りにおいて、機能し続けていた。明治憲政体制がキチンと機能していたのは、明治時代のリーダーが、江戸時代の武士としての教養と道徳を身につけていた人たちだったからである。当然、大衆社会化が進む20世紀以降、デモクラシーの波に洗われるとともにこのスキームは崩れ、偏差値だけ高い、無産者上がりで武士道の武の字もないリーダーが現れてくる。その権力闘争の成果が、40年体制である。

とはいうものの、1950年代ぐらいまでは、まだ武士道精神を身につける「育ち」をした人たちが、ある程度の量は残っていた。その限りにおいては、ホンネとタテマエが存在し、ある種のタテマエ(武士道精神)を尊重する限りにおいて、ホンネ(甘え・無責任)の実利が取れるという構図が続いていた。しかし、戦後の民主教育の成果(民主主義自体が、40年体制と極めて親和性があることに注意せよ。ファシズムは民主主義からしか生まれない)と、高度成長の果実により、1960年代以降、この遺構はことごとく崩れ去ってしまった。

この時点で、大衆の選ぶものは「おいしいほう」「楽なほう」でよくなった。そして、時代が進むとともに、どんどんホンネが表にでてくるようになった。21世紀を迎える今、もはやタテマエは存在しない。公然と、「甘え・無責任」を求められるようになったのだ。もともと日本人とは、甘え・無責任をもとめ、おいしい汁を吸える「大樹の陰」にぶら下がる人たちである。今や、それを「陰でこっそり」ではなく、「公然と堂々と」できるようになっただけのことだ。

このごろの子供たちの間では、「桃太郎」より、「家来の犬・猿・雉」になりたがる傾向が強い。桃太郎はリーダーなので、重責がある。それなりの名誉もあるが、役得にならない名誉を貰おうと、責任を負わされるのでは間尺に合わない。それなら、「家来」として桃太郎に責任を押し付け、自分の責任は問われない上に、キビ団子をもらえる役得や、一般の犬・猿・雉に対し「親分は桃太郎だぞ」と優位に立てるポジションのほうが、よほど楽でおいしいからである。

これは、良いとか悪いとかではなく、日本の大衆の伝統なのだ。そして、大衆の望むものが正しいというのが、民主主義なのである。そういう意味では、戦後日本の体制は、決してアメリカの押し付けではなく、日本の無産大衆が望んだ、40年体制の正当な延長上にあると認識しなくてはならない。戦前・戦後という区切り方こそ、実は何も変わっていない「日本の大衆」が、自ら熱狂的に支持しドンパチやった「戦争責任」を切り捨て、無責任な20世紀後半を過ごすための方便にすぎないのだ。



(07/09/21)

(c)2007 FUJII Yoshihiko


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