インターネット調査のM1






インターネット調査の誤差や歪みが、喧々諤々と議論されたのも今は昔。今世紀に入るとともに、「調査といえばインターネット調査」が常識といえる時代になった。もともと、コストや時間といった面では、人海戦術の調査に対して圧倒的な有利さを持っていたが、データそのものが逐一上がってくるので、集計も分析も極めて容易にできるなど、そのメリットは非常に大きい。

その一方で、旧来の調査へのニーズが減少するとともに、ノウハウを持った調査員を集めるのも難しくなり、訪問調査や郵送調査の実施は、非常にコストのかかる作業となってきた。日本の調査業界においては、昔から「統計マニア」みたいな人種が多く、実際の利用目的に求められる以上の精度を、データに求める傾向が多かった。しかし、統計の専門家がいなくても、エクセル等を用いれば、今や簡単な分析なら担当者が直接パソコンでできる。

日本において実施される社会調査のほとんどは、マーケティング関連の市場調査である。マーケティング調査で求められるデータは、大きい意味でのシェアである。それも、かなり雑駁な傾向値というかランキングで充分である。1位、2位、3位がわかれば、小数点以下の精度など必要ない。現状の市場でのポジショニングがわかり、キャンペーン等を行った後での効果測定ができればそれでいい。

そういう意味では、欧米で行われているように、+-2〜3%の誤差、全体で5%程度のブレがあっても、充分にデータとして活用可能である。昨今は日本企業でも、海外拠点での事業経験者や、MBAホールダー等も増えてきて、欧米的なマーケティングセンスを持ったビジネスマンが増えている。その甲斐もあってか、統計マニアの調査屋さんに振り回されずに、自分が必要とするデータの有効数字をキチンと把握できる人間も増えてきた。

これらの条件が重なり、「マーケティング関連の調査については、インターネット調査で充分」というのが、ほぼ常識となりつつある。問題があるのは、インターネットやコンピュータそのものに関連したデータのみである。インターネットへの接触率をとれば、インターネット調査なら当然100%である。しかし、全体を母数とした数字も、すでに85%以上になっている状況を考えれば、これも決して「オーダーが違う」というものではない。

このような状況を前提に、調査業界にも大きな地殻変動が起こった。旧来の手法による調査と、インターネット調査では、1桁、場合によっては2桁もコストが違ってくる。これでは、中小の調査会社はとても生き残れない。かくして、資金力のある大手はさておき、中小の調査会社は退場してしまう。それに変わってコンピュータソフトやインターネット関連の業界から、インターネット調査会社が参入し、業界地図は大きく変わった。

さて、インターネット調査専業の会社は、そのコンピュータ・ノウハウを活用し、より低コストで、よりスピーディーに調査実施を行う方法を編み出した。その際たるものが、「パネルに対する勧誘はランダムに出し、それぞれのターゲット毎の割付が埋まったところから締め切る」というスタイルだろう。旧来の方法では、先にパネルの中からターゲットを割りつけ、その対象者に対して調査を実施していた。

たとえば、「兵庫県在住の20代女性200人」を対象とするなら、パネルの名簿の中から兵庫県在住の20代女性を選び出し、経験値としての歩留まりで200回収可能と考える数だけリストアップし、調査票を発送していたワケである。しかし、このやり方だと事前のスクリーニングにかなりの時間とコストがかかることになる。しかし、当時は一人当たりコミュニケーションコストが高かったため、全体としてはこの方が合理的だったことも確かだ。

しかし、インターネット調査では、一人当たりのコミュニケーションコストが極めて低い。このため、一次調査と称して、パネルの全て女性に対しひとまず勧誘mailを出し、その中で「兵庫県在住・20代」という条件にあった人だけ、本調査のほうに誘導し回答、その数が予定の200人に達したところで打ち止め、という手法をとることが多い。このプロセスだと、事前のスクリーニングがいらない上に、歩留まりを見る必要もない。これもまた、スピードアップ、コストダウンに大きく貢献することとなった。

ぼくは、仕事柄インターネット調査の調査データに接することが多いが、この2年ほど、妙な傾向が気になりだした。それは、調査のフェイスシートレベルで、M1層の収入や学歴が低く出るのである。対面調査で得られたデータと比較して、統計的に有意な差があるぐらい違うのである。他の層ではそれ程差がないだけに、この「誤差」は非常に違和感がある。有意な差がある以上、インターネット調査固有の問題が潜んでいるはずである。

個票レベルで調べてゆくと、思わず納得する事実が判明した。これは、今のM1層固有の問題と不可分の関係がある。昨今社会問題となっているニートや引きこもりは、現在のM1層で特に顕著に見られる。そして、パソコン・インターネットは「ニートや引きこもりの友」ともいえる。彼らは、文字通りインターネットに「常時接続」しているのだ。ここまでくれば、勘のいい人ならお分かりだろう。常時接続している彼らは、勧誘がきたら即時回答できてしまうのだ。

そう、M1では統計的に有意な誤差を生じさせるほどその数が多い、ニートや引きこもり。割り付け定数で先着順打ち止め、という手法をとる限り、彼らの即時回答が優先して採用されてしまい、真っ当な「一般M1層」が回答できるころには、定数がかなり埋まってしまっているのである。インターネットの普及により、インターネット調査は市民権を得た。しかし、生活必需品レベルに普及することで、別の問題を引き起こしてしまったワケだ。

もちろん、技術的には回避可能である。M1層のパネルだけ、事前にニートや引きこもりと思しき層のスクリーニングを行い、別枠で定数をとってもいい。逆に、所得や職業をキーに、対面系の調査の結果に基づく定数の割り振りを行ってもいい。どちらにしろ、それ程コスト増になるものではない。それはそれとしてこの問題、団塊Jr.を中心とするM1層のある一面を、実によく象徴するエピソードではないか。彼らがいくつになっても、この傾向はついて回るに違いない。



(07/09/28)

(c)2007 FUJII Yoshihiko


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