ストック消費







今年も、もはや12月。重大ニュースの季節も近いが、その東西横綱に当確なのが、アメリカの金融危機にはじまる、世界的な経済低迷化であろう。かつて、97年の金融危機の経験から、比較的ダメージが少ないのが日本経済といわれてはいるが、景気の悪化は確実に日本にも影響を与えている。そんな今年の日本経済の特色のひとつとして、「消費の過剰反応」をあげることができるだろう。

石油価格と道路の渋滞が典型例だが、石油価格の高騰でガソリンが暴騰すると、レジャーシーズンにもかかわらず、観光地へ向かう高速道路も、ほとんど渋滞が起きなくなった。その反面、経済危機による資源価格の下落で、ガソリンか値下がりすると、高値の時期がウソだったかのように、以前と同様に渋滞しまくる。このように、自粛するときは自粛しすぎ、緩みだすと緩みすぎという、振り幅の大きな「ダッチロール」化がみられる。

これは、日本の消費市場特有の現象である。というのも、今の時期は、団塊世代も、団塊Jr.世代も、ともに労働人口の中にあり、消費者としてもメインストリームになっている、稀有な状況にある。団塊世代、団塊Jr.世代共通の特色として、「横並び指向で空気読みすぎ」ということがあげられる。みんなで渡れば恐くない、とばかりに、一人だけ突出しないように行動する。おまけに、団塊世代、団塊Jr.世代というのは、日本の消費者においては二大ヴォリュームゾーンである。

かくして、突出せず周りと同じ行動をしよう、という傾向が強い人々が、日本の消費者のほとんどを占めてしまっているのが2008年なのだ。これゆえ、「自粛ムード」に向かえば、極端に自粛して殻に篭ってしまう一方、ちょっとでも「雪解けムード」になると、バスに乗り遅れるなとばかりに、一気にイケイケムードになる。比較的「わが道を行く」性向がつよい新人類世代が間に挟まってはいるものの、絶対人数では多勢に無勢である。

そういう事情もあり、2008年後半の消費は、全体としては「自粛」がキーワードとなった。自粛というのがキツければ、様子見といってもいいだろう。いま購入しなくても焦ることはないし、あえて目立つことをするのもはばかられるので、ここはひとまずパス。これが、大多数の消費者の偽らざる心境ではないだろうか。消費マーケット全体としては、デフレ基調が復活した上に、買い控えが起こっている。これはとりもなおさず、どこかにキャッシュフローが「埋蔵」されていることに他ならない。

キャッシュを持った人がおり、様子見をしている状況。これが、長く続くことはありえない。どこかの時点で、消費に向かうハズである。そういう意味では、来年には、また金が動き出すに違いない。しかし、その消費のカタチは、今までと大きく変わってくるだろう。それは、そこで動く大きな金が、いままでのような「成金のフロー所得(これは、おやじギャグではないぞ)」ではなくなるからだ。株価が上がると消費が底上げする、というような現象を支えていたのが、こういうお金である。

株取引で儲かったから、クルマをメルセデスの新車に買い換えよう、というような景気のいい話だけでなく、こういう状況下では、「小銭が入ったから、贅沢をする」とか、「景気がよくなりそうだから、ローンで買う」という消費も誘発される。これらが、20世紀的な「景気のよさ」の要因であった。しかし、そういうキャッシュフローが潤沢に生まれてくるのは、もしかするともうありえないかもしれない。だからといって、消費が低迷し続けるわけではない。

これからの消費を引っ張ってゆくのは、こういう「フロー型消費」ではなく、「ストック型消費」である。すなわち、ストック内部でのポートフォリオの組み換えのために起こってくる取引である。「借りて買う」のでもないし、「儲けた分使う」のでもない。現金性資産を、モノとしての資産へ組み換えるために生まれる「購入」。これは、今までの日本では、余りみられなかったものである。不動産でも、借入で購入するのではなく、キャッシュで購入するのがこれだ。

節税対策といって、賃貸用不動産を売りつける営業があるが、それをローンで買ったのでは、全体としての収支は必ずマイナスになる。しかし、手持ちの現金性資産があるなら、それをそのまま持つ方が得か、不動産で運用する方が得かという、純粋に資産ポートフォリオの問題になる。これなら、場合によっては充分得になる場合もある。それだけでなく、相場の安定性が高い美術品や骨董品についても、同様のコトがいえる。カギは、中長期的な資産運用としての「購入」というところにある。

日本では、1億円以上の現金性資産を持っていても、生活に関するキャッシュフローは、仕事による給与所得でまかなってしまえる「第二種兼業資産家」が、非常に多い。実は、会社でも役所でも、あなたの隣の席に座っているヒトが、「第二種兼業資産家」だったリするのである。こういうヒトは、元本が目減りしない限り、利回りが低くてもそうは困らない。ということで、余程のコトがない限り、資産ポートフォリオの組み換えをしようとは思わない。

だが、世界的な低金利化と、世界的な不動産・お宝の価格暴落である。ここまでくれば、状況も変化する。実は、かつて一度だけ、日本でこの層が資産ポートフォリオの組み換えに積極化した時期があった。それは、バブル崩壊後の、超円高ドル安・超低金利の90年代半ばである。ある種、今はこの状況が世界レベルに広がったようなモノである。日本のカネの動きは、来年、ここから始まることは間違いない。問題は、この波に誰が乗れるかにある。そう、あなたの隣人は、もう「買い」に入るべく、手ぐすねひいて待っているのだ。



(08/12/05)

(c)2008 FUJII Yoshihiko


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