Gallery of the Week-Jun.00●

(2000/06/30)



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都市生活のデザイナー 杉浦非水展
東京国立近代美術館フィルムセンター 京橋

本館の改装で片肺飛行中の近代美術館。館蔵品の企画展をフィルムセンターの展示室で行っているが、今回は日本のグラフィックデザインのさきがけ、杉浦非水の作品を、平成8年度に遺族からの寄贈を受けた、国立近代美術館のコレクションで振り返る展示会。非水の作品展は、業界の大先達でもあり、開催されるたびいろいろなチャンスに見ているが、毎回、さすがにそれなりに発見がある。やはり「最初にやった」人のパワーというのはスゴいものがあるし、時代を越えるものがある。
20世紀前半の日本の美術史でクリエーティブなパワーを発揮した人は、日本画から入って、一人で美術史の再現をしてしまった人が多いが、非水もその一人。まさに日本画から入り、ジャポニズムから、アールヌーボーを通って商業美術としてのデザインの誕生というヨーロッパの歴史の流れを、自分の中で再現してしまったことがよくわかる構成になっている。
今回の圧巻は、有名な三越の広報誌「三越」の表紙のコレクションだろう。断片的には見るチャンスもあるし、個々の作品それぞれをじっと眺めるのもいい。しかし今回のように、多様なモチーフや技法をこれでもかこれでもかトライした作品群を、壁一面に展開するというのはなんとも壮観だ。やはり連載というかレギュラーものは、常に新しいものへの冒険ができないと長続きしない。しかし、本当にこれだけ何でもありで発表できてしまうというのも、なかなかあるチャンスではない。その意味でクライアントと作者の実にハッピーなグッドサイクルというべきなんだろう。
改めて気がつくのだが、初期のグラフィックデザインは写植で版下という時代ではなく、フォントも全て手書き。つまり作品ごとのオリジナルのタイプフェイスというワケだ。今からみると本当に贅沢な話だが、これはこれで現代の目からすると新鮮でさえある。なるべく規格化し、コストを下げることに汲々としているDTPによる最近のデザインのつまらなさに慣らされたわれわれのほうが本当はいけないのだろうが。原点を見て、原点を知る。21世紀に向けて、もう一度デザインが取り戻さなくてはいけないモノを、改めて感じさせられた気がする。



6/4w
第10回アウトサイダーアート展
ヴィレム・ファン・ゲンク Cities on his Mind
ザ・ギンザ アートスペース 銀座
毎年すっかりおなじみになった、ザ・ギンザアートスペース恒例のアウトサイダーアート展。なんと第10回だそうだ。今年もいつのまにかそのシーズンになっていた、という感じ。ちょうど(かどうかしれないが)今週は忙しくて時間が取れなさそうなこともあり、ここぞとばかりに会場へ向かう。今回はオランダのアーティスト、ヴィレム・ファン・ゲンクの個展形式の展覧会になっている。
ファン・ゲンクはオランダ人(笑)。というだけで心の歪んだ人という感じがしてしまうのがなんだが、社会にうまく順応することができないまま、耽った空想を絵にすることだけに生きがいを見出してきたとのこと。街の地図や写真、旅行ガイドに題材を求め、旅をテーマに様々な街の絵、そしてオブジェを制作する。
確かに、正規の美術教育の外側という意味では「アウトサイダー」であることには違いないのだが、決して「あっち」のものではない。息苦しいまでに詰め込まれているイメージが、ある種の偏執狂的な感じを与えないではないが、それはもともとテーマである、都市の猥雑なエネルギーそのものともいえる。それより、現代美術やマニアックなコミック作品を見慣れた目には、ストレートな思いの表現と見たほうがしっくりくる。今の時代においては、決してアウトサイダーとはいえないだろう。
おまけに視点もけっこうしっかりしている。東京をテーマにした作品もあり、確かに変といえば変だが、いいたいこと、伝えたい気持ちはそれなりに充分よくわかる。旧ソ連やスペインをテーマにしている作品も同様のものだろう。作られた頃には、アウトサイダーな作品だったかもしれないが、今の目で見れば、アウトサイダーなどという冠は必要ないのではないかとも思う。



6/3w
ヤン・アルテュス=ベルトラン写真展 空からみた地球
Bunkamura ザ・ミュージアム 渋谷

先々週に続いてBunkamuraの写真展だが、これにはワケがある。なんのことはない。タダ券をまとめてもらったというだけなのだが、そういうものは大事にしないと、とばかりにまたもや東急本店へ。先々週は初夏の陽射しだったものが、今週はすっかり梅雨空になっていた。その割には入りはいい。全然入っていないかなと思っていたのだが、意外や意外。こっちのほうが悪天候にも関わらず入りはいいのだ。やっぱり人々はわかりやすいものに惹かれるのだろうか。
さて、内容は航空写真の第一人者、ヤン・アルテュス=ベルトランが世界各地で撮りだめた作品を一堂に展示したもの。大きく分ければ、世界遺産もの、自然の驚異もの、環境破壊もの、各地の風俗・習俗もの、という感じでさまざまな題材が選ばれている。画面の比率から考えても35mmフィルムを使用しているものと思われるが、それを大伸ばしにしていることが、ある種の大判空撮につきものの、これでもかこれでもかという悪趣味なほどのぎらぎら感がないのは好感が持てる。
ただ、海外のこの手の写真にはつきものだが、どうしても「それがなんなの」というところがのこってしまう。これは、雑誌のナショナル・ジオグラフィックでも、CATVのディスカバリーチャンネルでもいえるのだが。キレイに写ってるし、苦労して撮っただろうなということもわかるのだが、そこから先がない。匿名のカメラマン的すぎる、あるいは報道ジャーナリズム的すぎる視線ということなのだろうが、写真作品という視点から見るとコメントはしにくい。でも観光ガイドの写真とおんなじで、誰にもわかりやすいというのはそこなんだろうと思うけど。



6/2w
開創950年記念 国宝平等院展
国立東京博物館 上野

創建950年にあたる2002年に竣工予定の宝物館への収蔵保存を前に、雲中供養菩薩52体の一括展示をはじめとする、平等院の国宝の数々を集めた展覧会。点数や会場の広さは限られているものの、ご本尊以外を持ってきたような中身の濃さが売り物。ふだんはその他大勢のエキストラというか、美空ひばりのバックについたフルバンドというか、まとめてなんぼの仏像群が、一つ一つ個性を見せてくれる。
確かに雲中供養菩薩のお顔、お姿がすべて間近に見られるというのは他にない機会ではあるが、なんか違う気がしてしまう。一つ一つ見たんじゃ、かえって御利益が減ってしまう。やっぱり平等院鳳凰堂は空間そのものを味わうもの。要素をバラして取り出したら、ありがたみがないということがよくわかった。ちょうど、バッテラとか笹の葉寿司とかいった押し寿司は、ネタとメシが一体化しているからおいしいのであって、薄い〆サバと固い寿司メシにわけて食べたのでは全然おいしくないようなもの。やはり鳳凰堂の中にあってこそ、ということだろうか。
しかし、平等院鳳凰堂といえば数々の見どころがあるが、ぼくにとっては何といっても、阿弥陀様のお顔が覗ける、堂正面の窓というか穴だ。あそこを通してお顔が拝見できるというだけで、どうにもワクワクうれしくなって、それだけで幸せになってしまう。まさに気分は極楽浄土。アレを思いついた平安時代の建築家の構想力はスゴいと思う。千年近くたってもまだ、人の心を浄土へといざなうアイディアなんてそうざらにはないよ。やっぱスゴい。



6/1w
日本写真家協会創立50周年展
1000人の写真家が撮る The Heart of Japan
Bunkamura ザ・ミュージアム 渋谷

色々な分野で活躍するプロのカメラマン・フォトグラファーをメンバーとする、日本写真家協会。今までも節目ごとに色々な周年事業を実施してきたが、創立50周年の今年は、撮りおろしの写真によるオリジナルの写真展を実施した。この写真展は協会メンバーを中心に、プロやハイアマチュアを含む1000人の写真家が、1998年7月から1999年6月までの1年間で撮りおろした1000枚の作品を一堂に展示し、日本の今を見せるという企画だ。
しかし1000枚の写真のヴォリューム感というのは半端なものじゃない。作品自体は、およそ現代の写真として考えられるものは、全て網羅されている感がある。芸術写真から、報道写真まで。時事的な視点から、自然派の視点まで。人物から景色まで。静物から天体まで。これがまた、どれも技術的にはあるレベルをクリアしている作品ばかりというのだから、一つ一つ見ていったのではそれだけで疲れてしまう。
中には、これが本当に1999年の日本なの、と感じてしまうような光景を写し取った作品もけっこうある。しかし確かにそれを全体としてみると、その雑然性、その多様性が今の日本そのものという感じがしてくるから面白い。そういう意味では、確かに全体で一つの表現、一つのメッセージは感じられる。無作為のなせるワザということなのだろうか。
だが、この感じはどっかで見たことがあるぞ。そうだ。アサヒカメラとかカメラ誌の月例コンテストだ。全然ジャンルが違う作品が、それなりに同居して居場所を作っている。確かに、70年代や80年代のバックナンバーを見ると、ここの作品という以上にその「並び」が時代性を感じさせてくれるが、それに近いのだ。それにしても面白かったのは、ほとんど新幹線の車窓の景色のように点景でしかない作品群のなかで、なぜか心にのこっているのは「技術的に問題のある」作品ということ。これはけっこう面白い。プロの中のアマは瞬間芸で勝つという例のヤツだろうか。



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