Gallery of the Week-Dec.11●

(2011/12/23)



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種子のデザイン‐旅するかたち‐展
INAXギャラリー 京橋

これまた、なんと評価すべきなのか大いに悩む展覧会である。基本的に、並んでいるのは植物の標本である。標本にする過程では、なんらかの人手が加わってはいるものの、何らかの創意が加えられるプロセスではない。客観的にみれば、この会場で常日頃行われている、アートやデザインの展覧会ではない。
上野にたとえて言えば、美術館ではありえず、国立博物館でもなく、科学博物館の世界のはずである。基本的には、変わった形をした植物の種子の展示でしかない。しかし、自然の生み出したカタチというのは、事実は小説より奇なりというか、実在する種子としての存在感を超えたイマジネーションを生み出す。
個々に集められているのは、風・水・動物によって運ばれるために、長い年月を経て特化し進化した、種子である。それぞれの形態は、それなりに科学的な説明が可能な、合理性を持っている。だが、合理性に徹したカタチは、得てしてシュールである。部分最適が過ぎると、全体としてのバランスを失ってしまうからだ。
この標本につけられたラベルが、植物の名称だからこそ自然科学なのだが、全く関係ない「題名」をつけてしまえば、これはシュールレアリスムである。それも、けっこう深くて面白い作品になる。本来の趣旨からはかけ離れてしまうが、創作とは一体何なのか、妙なところから深く考えさせてくれる、とても不思議な展示である。



12/3w
写真にみる50年前の日本 よみがえる昭和の情景
昭和館 九段下

これを、こういうところで取り上げていいモノかとも思うが、友人が個人的に開いた個展を取り上げたこともあるし、とても「作品」とは呼べないような類のモノが並んでいる展示も取り上げているので、一応フライヤーやポスターもある分、取り上げてしまいましょう。実はこの写真展、偶然用事で九段下を歩いていて、ポスターを見て知ったのだが、そのポスターって、鉄道の写真ばかりなんだよね。
で、興味を持って入ってみると、会場も屋外のエントランスホール。そこに仮設した壁面に、デジタルスキャンしてプリントした写真が40枚ほど展示してある。アマチュアカメラマンの太田o三氏が、昭和36年から37年にかけてスナップした、当時の街の情景である。基本的には、昭和館は古い写真の寄贈を受け付けているので、そのアーカイブからのコレクションと思われる。
街の情景もあるが、鉄道やクルマがお好きな方だったようで、基本的には乗り物と子供が主役である。街の情景も、ジオラマ派といえばいえないことはない。どう見ても、人々の生活の断片を捉えるタイプのスナップではない。とはいえ、記録は記録。いまとなっては、個々の写真のクォリティーより、そこに写っているものの方が価値がある。
太田氏は、荒川区か足立区在住と見えて、そっち方面の写真が多い。昭和36〜37年というと、ぼくの場合、そこに写っている子供たちとモロにカブっている時代である。ある部分は、とてもなつかしいが、ある部分は、「同じ東京の中でも、こういうところがあったんだ」という感じで、とても新鮮である。アーカイブにはもっと写真があるようだが、どんなカットがあるのか、とても興味を覚える。



12/2w
杉浦康平・マンダラ発光
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

西洋と東洋を結びつける、独自のデザイン世界を築いてきたグラフィックデザイナー・杉浦康平氏。その中でも、ブックデザインは、真骨頂ともいえるものであり、単に「本」という存在を超え、紙と印刷と造本でどういう作品を作り出すことが可能かという限界に挑戦したものといえる。その中でも「マンダラ」を主題にした「伝真言院両界曼荼羅」、「天上のヴィーナス・地上のヴィーナス」、「西蔵<曼荼羅>集成」の3作品は、格別の存在である。今回の展覧会は、この3冊の作品をもとに、空間展示に再構成したものである。
それぞれの時代には、その時代の美術工芸のあり方、宗教のあり方を反映した形で、装飾技法の限りを尽くして、宗教的イメージを極限まで膨らます手法が開拓されてきた。まさに「荘厳」である。それらは、仏像、仏具、仏画、経典など、今の時代からみても、宗教的な崇高さを伝えている。ある意味、寺院そのものの建築もそうである。
そうであるならば、現代のデザインや印刷の手法を用いて、現代の荘厳を実現することも可能なはずである。杉浦氏の作品は、まさにそれに挑戦し、具現化したものである。そして、そのコンテンツをギンザ・グラフィック・ギャラリーの空間をフルに使って表現する。ギャラリー内は、まさにある種の宗教空間と化している。
そういう意味では、3冊(と呼べるのかどうかわからないが)の作品の現物も展示してあるものの、この空間のインスタレーションそのものこそが作品であり、見モノである。デザインが持っている、人の心に働きかける力。その可能性はまだまだ大きく、今後それに求められる期待もますます大きくなるだろうコトを、大いに感じさせてくれる企画展である。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの空間が、なんとも広く感じられた。



12/1w
開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」 W 南蛮美術の光と影 泰西王侯騎馬図屏風の謎
サントリー美術館 六本木

サントリー美術館の開館50周年を記念し、その収蔵品の柱となっている南蛮美術と洋風画にスポットライトを当てた企画展。同じく南蛮美術に強みを持つ、神戸市立博物館とで分蔵している「泰西王侯騎馬図屏風」をはじめ、キリシタン関連の美術工芸品、当時の主要な輸出品となった南蛮漆器など、桃山時代から江戸初期にわたる、近世初期の特異な作品を集めている。
確かに、西洋風、キリスト教風の題材を選び、遠近法や陰影法といった西洋画法を取り入れてはいるものの、これらの作品は、決して西欧の作品の稚拙なパクりではない。それどころか、基本的には、桃山期の日本の標準的な美術工芸の手法に則りながら、それをもとに西洋風な表現を行う可能性をトライしたものと考えることもできる。
それだけに、その後の禁教・鎖国といった変化を通しても、宗教性・精神性とは別に、純粋に技術的側面や、作品としての発想といった面は、和風文化の血肉となって、江戸時代を通して脈々と受け継がれたことは間違いない。そういうクレオール的文化は、「照り焼ステーキ丼」ではないが、混血文化たる日本の真骨頂でもある。
日本の美術工芸に与えた南蛮美術の影響は、その後ジャポニズムとして、日本的なものをヨーロッパに溶け込ませる上で大きな役割を果たす上で大きい影響を残した。そういう意味では、日本の文化とは、それまでの全ての海外からの影響を残している、コスモポリタンなものである。こういう視点を改めて感じさせてくれるということは、これからの世界の中での日本の役割を考えてゆく上でも、大きな意味がある。



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