Gallery of the Week-May.99

(1999/05/28)



5/4w
フィレンツェとベネツィア
国立西洋美術館 上野

今月は、らしくないところばかり狙っている感もあるが、ウクライナの次は今度はサンクト・ペテルブルグとばかりに、ロシア国立エルミタージュ美術館の所蔵する、ルネッサンス前後のイタリア美術の展示だ。まあイタリアのなんとか美術館とか、フランスのなんとか美術館ではないところが、何かと興味を呼ぶ。特にロシアはヨーロッパでは贔屓なほうなので、どういうコレクションなのかという興味も含めて足を運んだ。しかし、さすが国立西洋美術館というか、日本人の油絵好きというか。いちばんヒトがいなさそうな時間帯を選んでも、老若男女を問わず、かなりの入りだ。
ぼくは西洋美術は苦手だし、キリスト教文化も苦手といえば苦手だ。だが、ルネッサンス期およびそれ以前の西欧のキリスト教宗教画は、決して苦手ではない。印象派なんかに比べれば、かなりクるものがある。イマジネーションにあふれているのだ。それは宗教画の場合、絵に込められたメッセージが、極めて観念的なものにならざるをえないからだろう。
中世の宗教画は、これはまさに記号性そのもの。様式化されたモチーフの組合せで、宗教心や神々しさを表している。ルネサンス期になると、表現に幅が出てくる分、作者の心の中の信仰心をどう表現するかがキャンバス上に投影される。そういう意味で、確かに形のあるモノを描いているのだが、決して具象画ではない。抽象画といったほうがいいだろう。そこが好きなのだ。
特にマニエリズムとか必要以上にディティールが語れるようになると、もはやシュールとさえいえるような表現が出てくる。基本的に絵画というのは、作者の心の中を語るからこそいい。写生的なリアリズムになると、どうも手先の技巧比べになってしまっていかん。おまけで常設展示の松方コレクションの印象派の作品をみて、その念を強くした。


5/3w
黄金のシルクロード展
そごう美術館 横浜

ブルガリアの次はウクライナとばかりに、ウクライナ国立歴史宝物博物館の所蔵する、古代遊牧文明として知られるスキタイ王国を中心とする工芸品の展示。黄金の文化として知られるだけに、遊牧文化をベースにした数々の精緻な遺品を集めている。もともと北ユーラシア大陸の遊牧文明というとそれだけで血が騒ぐ方なので、展覧会はだいぶ行っている。今回もその文脈で足を運んだ。
スキタイは、遊牧民の中でもイラン系といわれ、白人系の民族だ。その分、ギリシャやオリエントなど、地中海の古代文化に通じる要素や意匠も多い。だが、遊牧文化という側面は、それを越えて強く底に流れているものを感じる。それは万里の長城の北側を通って、日本にも大いに影響を与えている要素だ。
それは、モンゴル系でもトルコ系でも、アジア大陸の深いところではぐくまれた文明にはみな共通するもの。作品としての良し悪しや、その技巧の精巧さを語る以前に、この「呼ぶもの」があるから好きだのだ。羊の群れが地平線の彼方に見えると、ワクワクしてくるのと同じ。血が騒ぐんでしょうね。
確かにそごう美術館は、古代もの、シルクロードものの企画は比較的多いのだが、それにしても「黄金文明とそごう」ではあまりにピッタリ(笑)。まさにバブル前からバブル体質。数々のまばゆいばかりに輝く、黄金の工芸品のハマリ具合といったら、光りモノ大好きというそごうならでは。スキタイ文明も栄華を極めた後、奢れる者も久しからずとばかりに滅びていった。バブル崩壊と共に経営の傾いたそごうとなぜかオーバラップしてしまい、笑うに笑えないぞ。こりゃ。


5/2w
現代ブルガリアのグラフィックデザイン展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

またまた予備知識なしで、興味と好奇心のおもむくまま惹かれて行ったのが、このブルガリアのデザイン展。ポスターを中心に、ブルガリアを代表するベテランデザイナーのグラフィック作品を展示する企画。もともと東欧というだけでワクワクしてしまう上に、ブルガリアといえばスラブ系。ぼくの好きなロシア的なデザインに通じる力強さというか、泥臭いストレートな表現パワーもあるかということで、いったいどんなモノがでてくるか覗いてみた。
結論からいってしまうと、東欧圏が崩壊した90年代に入ってからの作品は、何となくパワーがない。旧西側のデザインや作品に情報が流れ込みやすくなってきたせいか、どうもどこかで見たような意匠とかタッチとか、妙に気になってしまう。日本でも海外交流の盛んになった70年代には、そういう傾向があったが、オリジナリティーという意味では余りいいことではない。
それよりも数は少ないが、冷戦時代の70年代、80年代初期の作品の方が、世界的な同時代性を押さえつつ、限られた情報をイマジネーションとオリジナリティーで補って、ずっとパワフルな感じがした。同じく最近の作品も、よりキャリアの長いベテランデザイナーの方ほど、しっかりと地に足が着いている感じがする。
ブルガリアといえば、今話題のバルカン半島の国。それだけに世界の風と民族的なオリジナリティーに関しては、われわれの想像できないような深いモノがあるのかもしれない。ただ音楽でも冷戦下の東欧では、ジャズと称して現代音楽とジャズの融合したような極めてオリジナリティーの高いモノが存在したのが、最近ではアメリカもののデッドコピーみたいなものばかりになっていることもあり、寂しい傾向といえば寂しい。しかしこれも、長い目で見れば文化的なオリジナリティー獲得のための大きなスパイラルの一環かもしれない。そして、商業芸術である以上、それは宿命なのかもしれない。


5/1w
女人高野 室生寺のみ仏たち
東京国立博物館 上野

ぼくは奈良にはよく行き、いろいろな寺をたずねあるいているが、実は室生寺には行ったことがない。何度か行こうとは思ったのだが、けっきょく行けずじまいになっている。けっこう交通のアクセスが悪いところにあるので、ここだけ決め打ちして行かねばならず、掛け持ちで見てまわりにくいからだ。かえって吉野とかの方が電車の乗り換えとかの便が良かったりする。
ということで、台風で被害を受けた五重の塔の復興協賛で、東博に主要な仏像がやってきたので見に行ってきた。中央のホールだけを使ったこじんまりとした展示だが密度は濃い。特に堂内にあるときより、至近距離で拝める点がよかった。
主として平安時代前期の仏像だが、京都を中心とする平安時代のメインストリームのモノとはちょっと趣が違い、心なしか素朴な味わいさえある。やはり、これだけ距離感があると、それだけ流れが違ってくるのだろう。
それを考えると、やはりあの山深い雰囲気の中で見てこそ、趣が深まるという気もする。五重の塔の修復が完成したら、こんどはぜひ足を運んでみよう。


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