Gallery of the Week-Dec.99

(1999/12/24)



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東大寺の至宝 ヨーロッパを魅了した仏教美術
東武美術館 池袋
東武美術館といえば、かつての仁王像展をはじめとして東大寺モノには強い印象があるが、今回は「ドイツにおける日本年」を記念して、ケルンの東洋美術館で開かれた東大寺宝物展の里帰り展。さすがに大仏は出展できないが、それでも一級の有名どころがズラリと居並ぶ様はかなり見ごたえがある。
東大寺は8つの宗派を合せた上に、時代を越えて中心的な寺院であり続けただけに、それぞれの時代、それぞれの宗派を代表する宝物が一堂に見られる分、それだけで仏教史、仏教美術史を感じることができる。南都で密教系のものとか、鎌倉期の秀作とかいうだけで、これはなかなかのモノなのだ。
さて、今回の目玉はなんといっても国宝の誕生仏だろう。このあまりにも有名な仏像だが、実はぼくはいままで写真でしかみたことがなかった。で、本物を見てびっくり。これけっこう大きい。一般の誕生仏の常識からすると、数倍の大きさがある。よくある念持仏なんかより、ずっと大きいのだ。これ、好きなんだよね。実はこの仏様、そのお顔がぼくの学生時代の親友のTくんにそっくりなの。実物みてもそうだった。写真以上に似てた。思わず納得。
よく考えてみると、東大寺というのは大観光名所で修学旅行とか家族旅行とか、子供の頃に一度はいったことがあるところ。その分、自分で興味を持ってからの奈良の寺めぐりでは、優先順位がどうにも下がってしまう。それでも興福寺みたいに交通至便ならついでに回るという手もあるが、それなりに時間を取っていく必要があるので、結局また今度と後回しになってしまう。そういう意味でも行って損はなし。おまけに年末年始にはいい企画だ。しかし、警備のヒトとか元旦の年明けも詰めているんだろうけど、この仏様に囲まれて年を越せるというのは、もしかすると至福かもしれない。これも役得の一種かな(笑)。



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ポール・デイヴィスのポスター展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座
60年代から活躍するアメリカのイラストレーター・グラフィックデザイナーである、ポール・デイヴィスのポスター作品を集めた展覧会。ズラリと並ぶポスターを見てまず驚かされるのは、その時代性を超越した存在だ。各作品の説明につけられた製作年を見なくては、いつの作品かほとんどわからない。もちろん、彼の作品に詳しいヒトなら、時代ごとの作風の変化から年代はわかるのだと思う。しかし、その変化自体も、時代の流れとは関係ないところにあるのだからすごい。
ましてやイラストレーションではなく、商業目的を持ったポスターなのだ。60年代の作品なら60年代の香り、70年代の作品なら70年代の香りがぷんぷんしてもおかしくない。ファインアートの作品でも、時代性は感じられる。ましてや、それがぷんぷんしてこそグラフィックデザインだ。これをそれぞれの時代に受け入れされているところが、なんといっても天才的なのだろう。
それがまた、必ずしもオリジナリティーの塊のような手法を使っているわけではないのだ。どちらかというと、引用元があり、それが感じられるような作品だというのに。その秘密はどの作品も「アメリカ」を感じさせるキーワードを秘めているところにあるのだろう。多分アメリカ人なら無批判に受け入れて熱狂してしまうような要素。いわば、サブリミナル的に星条旗のコマが入っているムービーのようなモノだ。
そういう意味では、ぼくにとってはイマイチ、ピンと来ないところがある。日本国内でフルサイズのアメリカ車に乗っているような感じといえばいいのだろうか。こういうある種の「土着性」のある作品は、やはりその風土の中で見てこそしっくりくるのだろう。似て非なるモノ。都市といっても東京じゃダメで、ニューヨークならOK。置かれる場所を選ぶ。なんかそんな感じがした。



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Passion for View 第九回アウトサイダーアート展
ザ・ギンザ アートスペース 銀座
1991年にはじまり、90年代を通してザ・ギンザ アートスペース恒例の出し物なった、アウトサイダーアートの展覧会。第9回となった今回は、またまたスイス・ローザンヌのアールブリュット美術館のコレクションから、対照的なふたりの作家を特集してご紹介している。一人はすでに故人となっているが、ドイツ生まれのジョゼフ・ヴィットリッヒ。もう一人は、アメリカ生まれのブルックス・ヨーマンスだ。
ヴィットリッヒは、独特のタッチで、カラフルで力感あふれるテンペラ画風の水彩画を描くのを得意の作風としている。ヨーロッパではいざ知らず、われわれにとっては決してアウトサイダーとしてくくる必然性は感じないタイプ。ヨーロッパでもステンドグラスやタペストリーとかのデザインに通じるものがあるので、決してはみ出し切ってはいないと思うのだが、いかがなものだろうか。基本的には生前はとても奇人だったらしいので、そのせいかもしれないが、それはアーティストならよくある話。多少個性の強い描き手、という感じだ。
一方ヨーマンスの作風は、これはなかなかキてていいぞ。アウトサイダーアートらしいよさが漂っている。神経質かつ乱雑に描きつけた、モノトーンの線描からして器体が大きいが、なによりその独特の画面構成がいい。自分の心で感じたように描く、独特の空間表現。このパースペクティブは、大人のアートの世界に学ぶ前の小さい子供がよく描く表現法に似ている。それに加えて、これまた独特の動きや位置の表現も面白い。そりゃヒトが動いていれば、その向こうの景色はかいま見れるよな。それをそのまま作品に描き表したというか、半透明のセル画のような、二重三重の線。自分の少年時代の記憶を克明に表現しているらしいが、妙に納得するものがある。
ということで、今回は前回のアウトサイダー展よりは得るものがあった感じ。とはいうものの、もう「アウトサイダー」とわざわざ枠組みを作ること自体が陳腐化している気がする。なにがインサイドで、何がアウトサイドなのか、もはやすべてが相対的な時代になっているというのに。



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シパン王墓の奇跡 黄金王国モチェ発掘展
伊勢丹美術館 新宿
南米ペルーの古代文明というとインカ文明が有名だが、これはその千年前、山ではなく北部海岸地方の砂漠地帯を中心に栄えたモチェ文明の遺物にスポットライトを当てた展覧会。日本人ペルー移住100年記念ということで、一連のペルー考古モノの展覧会が開かれてきた一環である。日本ではいろいろな面で古代アンデス文化は人気があり、今回もかなりの客の入りだ。
アンデスの古代文化というと、独特の躍動感のある表現に特徴があるが、このモチェ文明も実にユニーク。ちょっとユーモアさえ感じさせるデフォルメと、迫力あふれるリアリティーが同居する造形は、数ある古代アンデス美術の中でも相当なインパクトがある。たとえば、人物の顔の造形や描写は、表情あふれるモノであると同時に、実際今でもこういうヒトはペルーに行けばいそうだと思わせるほどのリアリティーと個性をたたえている。それでいて、その顔が「遊星からの物体X」のカニ頭よろしく、そのままツボになっていたりするのだから、面白い。
薮内佐斗司氏の作品よろしく、愛敬たっぷりでありながら、ブキミな感じもするほどにデフォルメされた動物にも、タダならぬ造形力を感じる。オドロオドロしい生け贄の儀式を表現した像や壷絵がある一方、思わずうれしくなってしまうほど、コミカルなセックスを形どった像もある。デカいリャマがいたというのも、なんか楽しい。
もちろん今回の目玉になっている、シパン王国の王墓から発掘された黄金の細工品の数々も大したモノ。黄金にタダならぬ執着を示した古代アンデス文化の遺品の中でも、相当なモノであることは確か。ちょっと見たことがない代物だ。古代アンデスファンはもちろん、一般教養向けにもわかりやすいし、それなりに面白い展覧会だ。



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