バーストの秘密

基礎編 (その2)





・バーストの制作年別の特徴
1958年から1960年にかけて3年間にわたって製作されたバーストだが、その3年の間にもイヤーモデルごとのマイナーチェンジがあり、58年タイプ、59年タイプ、60年タイプの3つにわけることができる。各タイプはそれぞれ次の年まで生産されているので、59年前期のモデルは58年タイプ、60年前期のモデルは59年タイプということになる。

1. 58年タイプ
57年タイプのゴールドトップの特徴を受け継ぐ。太い握りのネックが特徴。フレットは0.75インチの細いタイプ。杢のとり方は多様で、キルト的なものや、左右で違う杢のものも多い。59年に入ると、段々杢を合わせてとるトップが増えてくる。塗装はレモンドロップ的に赤が抜け切ってしまうものは珍しく、深いチェリーのニュアンスで色が残っているものも比較的多い。これも59年に入ると段々抜けが強くなってくる。

2. 59年タイプ
ネックは肩が落ちて少し細い握りになる。フレットは0.1インチの幅広いタイプになる。ワイドフレームでもピンストライプでも、杢を左右であわせ対象的に見せるトップが基本になる。バーストらしい顔をしたものは、この時期に多い。赤が抜けてしまう度合が最も強く、完全に抜けたレモンドロップや、残っていてもニス仕上げのような渋い色になったティーバーストが多い。

3. 60年タイプ
ネックは、後のSGにつながる薄いタイプになり、仕込み角度も3度から5度になる。トップ材も多様化し、バーズアイのようなレアな杢を持つものも現れる。このへんはマニア好み。塗料が変わったため、赤が抜けなくなり、逆に不透明で濃く残るものや、ベースの黄色が強まってオレンジ色に見えるものが多くなる。

もちろんこれは全体の傾向で、個体差が大きいバーストだけに、このような傾向に当てはまらないものも存在するのはいうまでもない。

・オールドレスポールの価値と値段
レスポールに限らず、オールドギター、ヴィンテージギターは高価で取り引きされている。その中でも、ワンオフと呼ばれる特注カラーや試作品、限定品等の「その一台」しか無いものは別として、バーストは最も高い値段がつけられているソリッドギターといえる。果してそれは法外に高いのか、それとも適正な値段なのか。一つ考えてみよう。
まず、オールドレスポールは木が違う。オールドレスポールに使われている木材は、ネック&バックのホンジュラス・マホガニー、トップのハード・メイプル、指板のハカランダの三種類だ。これらはソリッドギターを作る上で理想の材だが、このどれもが今では手に入れることができない。そもそも木が育つには時間がかかる。それもギターの部材がとれるような大きさに育つには、少なくとも50年から100年はかかる。だがギターに使えるそれらの木は、ほとんど1950年代までに伐採されてしまった。それからまだたかだか30〜40年。まだ生えていない。今手に入るのは、昔伐採した材の残り材しかない。これはいい部分をギター用に使ってしまった残りなので、クオリティーは相当落ちる。悲しいことだが、いい部材を手に入れるためには、50年代のギターを解体して木だけ使うということさえ行われている。その意味で、理想のギター用材というだけでも、相当の値がつくはずだ。
次に作りが違う。今の機械化・コンピュータ化された工場と違い、1950年代では、熟練した職人が長年の経験とノウハウをもとに、ローテクな工具で手作りに近いカタチで一台一台作ったものだ。たとえば、現代の名ルシアーである、エリオット、マイケル・ドレスナー、マックスといった職人が手作りで作ったレスポールタイプでも、一万ドルはする。レスポールとは、そのぐらい製作に手間のかかるギターなのだ。この「仕事」だけでも相当の値段がつくはずだ。
最後に稀少価値がある。そもそも、この世に1500台程度しか作られなかった。壊れたり使えなくなってしまったものも多い。台数が限られている上に、みんなが欲しがっている。これでは、プレミアムがつかないわけがない。それに加えて、杢を楽しむコレクターもいる。骨董品となれば、値上がりを期待して買いあさる投資家もいる。そもそも客観的な部分を評価するだけでも相当な金額だというのに、欲しい人が多ければ青天井になってしまう。ということで、現状の相場としての、もっともベーシックでプレミアムがない「使える」状態で35,000〜40,000ドルという状況は、決して高いものとはいえないだろう。そこから先の、ミントコンディションやレアな杢にいくらまで出すか。これはもう、買うヒトの主観でしか決められない。それが、美術品や骨董品のオキテだからだ。

・オールドレスポールのサウンドの特徴
オールドレスポールのサウンドを、一言で的確に表現するのはとても難しい。それはなによりそのサウンドが、ナチュラルでアコースティックなクセのない響きだからだ。クセが強ければ、それを語ることはたやすい。しかし、色がなく純粋なものほど形容することは難しい。オールドレスポールのサウンドは、まさにこれなのだ。
しかし、個別に特徴を見てゆけば、いくつかポイントを拾うことはできる。なによりも特筆すべきは、木部の鳴りが素直な点だ。第一のポイントとしては、音質を崩すことなくいかようにも音量を変えられる、ダイナミックレンジの広さがあげられる。これがサウンドのナチュラルさを生んでいる。生音が大きく、表情豊かな点も見逃せない。生の鳴りが豊富な倍音を持っている。最初に無い倍音は、いくら加工しても加えることはできない。豊富な倍音はなにより音色の幅を広げる。アコースティックな響きはここから生まれる。だからオールドレスポールは、アンプに繋がない状態で奏いても、他のギターとは全然違う。レスポールに限らず、ソリッドボディーのギターでも、サウンドの基本は木の鳴りだ。だから、ギターを選ぶときには、生でどれだけ鳴るかを見極めるといい。生で良くなるギターなら、ピックアップ等のセッティングを詰めれば、必ずいい音になる。その反面、生で鳴らないギターは、どんなピックアップを乗せ換えてもいい音にはならない。
もちろん、オールドレスポールはエレクトリックパーツの部分もすばらしいギターだ。それは、PUや電気系統で色が付かないからだ。そこにある倍音を、そこにあるがままに電気信号に換える。いい音のするオーディオがとても高価なように、ナチュラルに電気信号を作り出すのは、実はとても難しいことだ。実にクリアで、ダイナミックレンジが広く、ハイファイなピックアップ。伝説になっているPAFの魅力は、実はここにある。その後、ピックアップで音にクセをつける設計が主流になり、ハイを持ち上げたり、出力を高めたりといろいろいじるようになってしまったが、もともとピックアップとは、ハイファイを目指していた。その時代の完成形がPAFだからだ。
ゴージャスでリッチなリアPUサウンド。繊細でクリアなフロントPUサウンド。このそれぞれが、豊かな木鳴りと、ハイファイなピックアップがあってはじめてできるサウンドだ。さらに、その両者が両立している。フロントもいい音、リアもいい音。こういうギターは、そう簡単には作れない。フロントがいいギターは、リアがショボくなる。リアがいいギターは、フロントが出すぎて味がない。大量生産のストックのギターは、多かれ少なかれ、こういう問題を抱えている。これはピックアップでごまかせる問題ではない。このバランスの良さは、知るヒトぞ知るオールドレスポールならではの魅力といえるだろう。

・オールドレスポールの音を語る
多くのヒトが、「レスポールの音」を誤解している。CDとかで聞いても、ギターのクセより、奏くヒトのクセが全面にでてくるギターなので、まあ、これも仕方ないといえば仕方ないだろう。奏くヒトの指先のニュアンスをナチュラルに出すところが醍醐味なのだが、これは自分でプレイするヒトで、なおかつニュアンスを出すだけの表現力と表現欲のある人でないとわからない部分だからだ。
これまたよく勘違いされるのだが、オールドレスポールは、決してハイアウトプットなギターではない。もちろん大きい音で奏けば、アウトプットレベルは上がり大きな音がでるが、小さな音で奏けば、ちゃんと小さな音がでる。ダイナミックレンジの広さならではのワザだが、奏く人が奏けば、太く粘っこい音も、デリケートな音も、同じセッティングで出すことができる。このわずかなタッチの違いで、幅広いトーンが出るところこそ、オールドレスポールの身上といえるだろう。
ハイアウトプットでない以上、決してよく歪むワケではない。歪むだけなら、ハイアウトプットの80年代のモデルのほうがいい。どんな小さい音でも、歪んでくれる(笑)。エフェクター的な歪んだ音をだした上で、その強弱を使い分ける奏法には、オールドレスポールは向かない。実際アメリカンハードロック的な音なら、バーストにオールドマーシャルより、80年代の再生産モデルにJCM800の組合せのほうがベストマッチだ。
音の立ち上がりが極端に速いのも特徴だ。その上アタックもくっきりしているので、右手の押弦と左手のピッキングがあわないと、そもそも音にならない。下手に奏くと、ホントに下手に聞こえるし、ごまかしがきかない。逆に微妙なタイミングの違いもきっちり鳴り分けてくれるので、それを奏き分け表現できるプレーヤーにとっては、こんなに頼もしい武器はない。ギターが勝手に鳴ってくれるのではなく、プレーヤーが自分の個性で鳴らす。このアコースティック楽器の原点を充分に感じさせてくれる。
どの一台をとってもこのように「いい音」なのは言うまでもないが、さらに手作りに近い分、一台一台ごとの音の個性がキワだっているのも魅力。ネックの仕込み角度だ、ピックアップの巻き数だといろいろ理屈をこねる人はいるが、そういうスペック以上に、手作りならではの個体差が大きい。それぞれが味わいのある個性を持っている。オールドレスポールにはまると何本でも欲しくなってしまうのは、このせいだ。

・オールドレスポールを生かす基本奏法
では、これらのオールドレスポールから最高の音色を引き出すにはどういうポイントがあるのだろうか。基本的にはエレクトリックギターなので、オーソドックスなエレクトリック奏法には違いないのだが、艶のあるアコースティックギターを鳴かせるのと共通する気配りが必要になる。つまり指先で、どれだけ多くのニュアンスを弦に込めることができるかが、鳴きの「カギ」になるのだ。そしてそれに応えてくれるだけの懐の広がりが、オールドレスポールにはあるということだ。
ストレートな音のでるクセの少ないアンプに繋ぎ、右手と左手のニュアンスだけで、音色を奏き分ける。レスポール奏法の醍醐味は、一言でいってしまえばこうなる。ストレートな音のでるクセの少ないアンプ、とはどういうものか。それはワンボリューム、パッシブトーン、トレモロ・リバーブといった付加回路のない、シンプルな回路のチューブアンプがいい。Marshall 1959 やフェンダーツイードアンプがベストマッチな理由はこれだ。ただただギターの出音をそのまま拡大する。アンプも、ナチュラル&アコースティックでなくてはいけない。
軽く奏けばクリーントーン、そのままタッチを強めると、だんだん歪みがかかって音が太くなってくるようなセッティングにしよう。このトーンの幅の広さが、人々をヴィンテージギターのとりこにする。同様に、ヴォリュームコントロールをゲインコントロールのように使い、同じ強さでピッキングしても、クリーントーンからディストーショントーンまでを出しわけることもできる。
さあ、バーストを50年代のツイードデラックスにプラグインしてみよう。ヴォリュームもトーンもフルアップ。それが、本来のこの回路のナチュラルな音を生み出すからだ。なでるようなタッチで奏けば、フルアコのようなゴージャスなアコースティックサウンド。力強く粘っこく奏けば、50年代の機材でこんな迫力のある音が出るのかと思えるぐらいの、図太いディストーションサウンド。これが、セッティングを変えずにタッチとギター側のヴォリューム&トーンのコントロールだけで出せてしまう。一度その表現力の大きさに触れてしまうと、もう他のギターは使えなくなってしまうくらいだ。


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