バーストの秘密

上級編 (その2 PAFの魅力)





・PAFの秘密はダイナミックレンジの広さ
1957年に生まれ、1962年までギブソン社のエレクトリックギターに取りつけられ提供されていたピックアップ。そのバックプレートに張られたデカルの文字"PATENET APPLIED FOR(特許出願中)"をとって、PAFと呼ばれている。いまや、PAFは伝説のピックアップとなっている。その神話は、まるでそのピックアップを取りつけるだけでたちどころにすばらしい音がでてくるかのように語られているが、果たしてそうなのだろうか。本当のPAFの魅力はどこにあるのだろうか。確かにPAFは特筆すべき特性をもったピックアップだ。しかし、それは魔法を持っているわけではない。PAFの魅力は、ひたすらナチュラルに、ひたすらハイファイに、弦とボディーの鳴りを再現してくれるところにある。これは50年代のソリッドギターに共通して言えるのだが、当時のソリッドギターの設計は、鳴りのいいボディーを使い、その鳴りをどこまでもナチュラルに電気信号に変えるというところに基本があった。これはその後のギターが、ハヤっている音楽にあわせて、ピックアップの特性を使って音を作ってしまうのと好対照を示している。弱く奏けば、弱い鳴りの音。強く奏けば、強い鳴りの音。その音量も倍音構成もそのままに、一切色を付けることなく電気信号に変える。これは、言うは易く、行うは難いこと。それを50年代の、どちらかと言えばローテクな電気回路で実現してしまうのだから、それを成し遂げた職人的な熟練ノウハウにはすばらしいものがある。そして、クセがなくナチュラルだったからこそ、その後の音楽の変化の波にも対応でき、銘器として歴史に名を残すことができた。これはたとえば、1960年代のサーフミュージックにスポットライトを当てた設計のギターが、音楽の変化に対応できず、ビザール・ギターとしてしか生き残れなかったのと好対照と言えるだろう。

・PAFと#PAFはどう違うか
ひとくくりにPAFというが、PAFには大きく分けて二つのタイプがある。前期型は57年の誕生から60年アタマまでの時期に作られたモノ、後期型は60年から62年にかけて作られたモノだ。前期型は、いわば仕様が確定する以前のモデルで、基本的に手作業で作られている。このため、コイルのターン数も一定せず、個体差が大きい。出力レベルにかなりのばらつきがある。特に極初期型の57年に作られ、PAFデカルもないタイプのモノには、異常に巻き数が多いモノも見受けられる。これは、それ以前のP-90の出力レベルを確保しよう(P-90のほうがターン数も多く、出力は大きい)としたモノと考えられるが、シングルとハムバッキングの特性の違いから、出力そのものはそれほどなくても音量感が得られるため、段々仕様が落ち着いてきたモノと考えられる。それでも1〜2割のターン数の個体差はある。前期型の末期には、ダブルホワイトやゼブラのニックネームで知られる、白ボビンのモデルがありマニアの間で珍重されている。しかし、これはボビンの生産が間に合わず、別のプラスティックメーカーに発注した際、黒い材料が足りなかったためできただけのモノだ。もちろん、ばらつきの範囲で個体差はあると思うが、見てくれ以外に特別な違いはない。もし音に違いがあるなら、カバーを開けずとも判るハズなのだがそういう話を聞いたことがないことが、真相を語っていると言えよう。後期型は、仕様が固まり機械巻きに移行してからのモデルだ。もちろん、バラつきがないだけで、そのすばらしい音響特性は変わらない。かえってピックアップとしては安定しているということもできる。62年の半ば頃から、ナンバードと呼ばれる、パテントナンバーが入ったデカルを貼ったモデルが登場する。パテント取得自体は1959年なので、この移行には特別な意味はなく、ストックのデカルが切れたタイミングで、パテント入りに変更したというのが真相だ。だから、後期PAFとニッケルナンバードと呼ばれる初期ナンバードには、デカル以外には違いはない。音に違いがあるような気がするのは、ピックアップというより、SGモデルにしろ、ES-335にしろ、たとえば1961年製と1964年製を比べると、出荷台数が違うぶん、材質も工作の手間も時とともに落ちており、その分音が違うというボディー側の事情に他ならない。その後ナンバードは、1965年頃からカバーがクロムメッキになり、1968年頃からTボビンと呼ばれるT字型の模様がボビンに入るようになり、1972年頃から、パテントナンバーがプレートに刻印されるようになるまで作り続けられる。この間一貫して、音は堅くなる一方、出力レベルは上がってくる。それでも70年代のモノと比べれば、まだハイファイでナチュラルな音がすると言うことはできるだろう。

・セコいギターにPAFをのせると……
このように、PAFはクセのないナチュラルなピックアップだ。何も足さないし、何も引かない。アナログ技術的な意味で、とてもハイファイなピックアップだ。だから、PAFをダメなギター、セコいギターに乗せるとどうなるかはもうおわかりだろう。ハダカの王様が歴然。どうにもごまかしようのない、煮ても焼いても喰えない音になる。PAFを乗せてみて、そこそこいい音がするならば、それはそのボディーがかなりいい線をいっていることを意味する。高い金を出してPAFを買っても、つけるギターによっては結果は惨憺たるモノになる。逆にバーストなら、余程クセの強いピックアップはさておき、ナンバードでもいいし、ダンカンの59でもいいし、ある程度ナチュラルな特性をもったピックアップなら、必ずいい音がする。カギはPAFではなく、木部にあるからだ。では、なぜPAFにこだわるのか。それはPAFがのっているギターは、ボディーのレスポンスがいいのが前提ではあるが、プレイヤーの微妙な指先のニュアンスをフルに表現してくれる、繊細な表現力を持っているからだ。これは見方を変えれば、ごまかしが利かないギターだということ。勝手に鳴ってくれるギターではない。下手に奏くとどうにも恥ずかしいぐらい下手なプレイになってしまうということもできる。実際奏いてみると、自分のプレイのどこが悪いかよくわかる。こういうギターを使っていれば、アコースティックギターで練習するのと同じように、早く上達するし、自分のニュアンスを表現するのも俄然ウマくなることも間違いない。

・ポールピースはアジャストするもの
スーパーディストーション系の、ハイパワーピックアップならいざ知らず、PAFのようなナチュラルなピックアップの場合は、セッティングによってもびっくりするほど音が変わる。ピックアップの高さを変えて、出力レベルを変える方法は良く知られているが、PAFやナンバードでは、それに加えて、ポールピース高さの調整によっても音を変えることができる。ピックアップそのものを上げると、ピックアップ自体がハイパワーになったような音になり、パワーは出るものの、コンプレッションがかかるというか、ダイナミックレンジが狭まってしまう傾向になる。これはこれで使いようともいえるが、ダイナミックレンジをそのままにして、もう少しレベルがほしいというときには、高さはそのままにして、ポールピースを上げるセッティングにするといい。いわば、張りが出てくる感じの音になる。実際には、この両者を併用して、ピックアップ高さ、ポールピース高さともにベストの音になるように調節する。また、ポールピースの調節は、弦間のバランスやばらつきを調整するように使うこともできる。使うゲージを変えたときなどには、オクターブチェック同様、チェックしたいところだ。

・ピックアップセッティングの秘訣
オールド・レスポールの醍醐味の一つは、フロントとリアのピックアップバランスがいい所にある。従って、ピックアップセッティングも、このバランスを活かすように調整する必要がある。このためには、まずリアから音を作ってゆく。オールド・レスポールといえども、リアの出力はフロントよりは小さい。従って、ポールピースをフラットにし、上げ気味のところで音を聞いてみる。リアの出音が満足いったら、そこでポールピースの調整で各弦のバランスを取ろう。オールドの場合、ブリッジの高さが低いので、ピックアップの高さは稼ぎやすい。エスカッションすりきりか、ちょっとアタマだけ出るぐらいで、充分高さは上がっている。リアの音が決まったら、フロントのバランスを取る。センターでのバランス。同じアンプセッティングで、リアとフロントを切り替えてのバランス。実際にスタジオやライブで使うレベルの音を出してバランスをみたほうがいい。リアとフロントで、音質は変わっても、音量感、音圧感が変わらないところがベストだ。何度も切り替えながら、高さを調節しよう。ベストポジションは、多分想像するより下げ目のところになると思う。エスカッションギリギリでバランスが取れるのは、オールドの中でもかなり鳴りのバランスのいい個体だ。多少へっ込ませたぐらいの音質で、ポールピースで最終バランスを取ることになることも多い。この技法は、もちろんカレント・ストックモデルでも応用可能だ。しかし、かなり極端なセッティングになることも多く、あらためてオールドのバランスの良さを感じることができるだろう。



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