バーストの秘密

上級編 (その5 ハードウェアとカラー)





・ペグ、ナット、ブリッジ、テールピース
ディープジョイントだ、ネックの仕込み角度だといろいろうんちくを傾ける人が多い。確かに他の条件を一定にすれば、それなりに音への影響があるのは確かだが、それ以上に直接音に対して大きい影響を与える要素も多い。その典型的なモノが、直接弦に接触するハードウェアである、ペグ、ナット、ブリッジ、テールピースといったパーツ類だ。かつて、1980年代にコンポーネントギターブームが起きた頃からギターを奏いていた人なら、ブラスナットに代表される、これらハードウェアの材質が音に影響を与えるとして大いに話題になり、いろいろな製品が登場したのを覚えているだろう。
まず誰にでもわかるのが、弦の振動を直接ボディーやネックに伝える役割を果たしているナットやブリッジコマの影響だ。バーストの場合、ナットは特殊なナイロン材、ブリッジコマはブラスでできている。このどちらも、現在使用されていない素材だ。今よく使われているような、骨材を模したプラスティック製のナット、ダイキャスト製のブリッジコマとは、どちらがいい悪いという問題以前に、伝える振動が異なってくることはイメージとしてもわかるだろう。ナットもブリッジコマも、基本的には使用とともに削れてくる消耗品なだけに始末が悪い。プロのプレーヤーでは、操作性上交換しなくてはならなくなったが、それ以来音が変わってしまい、使いこなしに苦労しているというようなエピソードは事欠かない。ヴィンテージの音を大事にしたいのなら、ダメにしないようにできるだけ大事に使おう。
一方、忘れられやすいのが、ペグやテールピースといった、弦に密着したウェイトとして働くパーツの影響だ。弦の振動は、倍音ごとに分けて考えると、いろいろな周波数のサイン波が組み合わさったモノと考えることができる。基音に近い倍音は振幅が大きく、振動のエネルギーも大きい。一方、高次の倍音は振幅が小さく、振動のエネルギーは小さい。ペグやテールピース、ブリッジ本体といったパーツが重くなると、エネルギーの小さいサイン波は、吸収されたり、すぐ減衰したりしてしまう。従ってパーツが重い場合、高次の倍音ほど失われてしまうことになる。
特にバーストに代表される50年代のギブソンギターでは、テールピースやブリッジ本体といったハードウェアパーツは、アルミ分の多い超軽量ダイキャストで作られている。これは現行の同形パーツと比べると非常に軽い。オールドギターの豊かなトーンニュアンスは、この軽量ハードウェアによっても支えられている。オールドパーツが目が飛び出るほど高いのも、まんざら理由がないわけではない。
ヴィンテージギターならではのニュアンスは、豊かな高次倍音にあるので、それらが吸収されてしまったのでは、折角の味わいが減ってしまうことになる。ただ音自体は好みだし、倍音が出すぎて音が暴れすぎるギターの場合は、すこし倍音を減らした方が扱いやすい音になる場合もあるので、一概にどちらがいいといえるモノではない。しかしこれらのハードウェアを交換すると、プレーヤーのみならず、リスナーにとってもはっきりわかるぐらい音が変わるということは忘れないでおこう。

・ペグで音が変わるオールド
ペグは、「ペグ、ナット、ブリッジ、テールピース」の項目で述べたように、弦の端についたウェイトとして、弦の振動に対して大いに影響がある。それのみならず、ネックの先端にあるヘッドに取りつけられているがゆえに、ボディー側の振動に影響を与えるウェイトとしての効果もある。ペグはこのようにダブルで音に影響を与える。ましてや、微妙な振動のニュアンスも余すところなく伝えるオールドギターだ。その影響は考える以上に大きい。
バーストオリジナルのクルーソンペグを、グローバーなどのロトマチックペグとつけ換えると、相当に音が変わる。弦にウェイトが加わる影響だけでなく、ネック自体もモーメントが大きくなって、振動しにくくなる。ライブで聞いてもはっきりわかるぐらい、音のニュアンスが違ってくる。まずアタックがストレートに出るようになる。高次倍音の減衰が早い分、アタックの部分のトーンニュアンスと、サスティンの部分のトーンニュアンスとの差が大きくなるからだ。次にサスティンがよくなったように感じる。クルーソンでは、サスティンしながら段々高次の倍音が減衰してくる感じなのに対して、ロトマチックでは、より基音に近い倍音がサスティンの間一様に鳴っている。その結果、相対的に音が良く延びて聞こえるというワケだ。
だから、これは良し悪しではなく、ニュアンスの違いと考えてほしい。どっちかが良く、どっちかが悪いという問題ではなく、それぞれの違いがわかっていればいいということだ。しかし、こういう違いがあることを知らずにペグ交換をするのは問題だ。
オリジナルのクルーソンよりも、グローバーなどのロトマチックタイプの方が、精度が高く、的確なチューニングができそうなイメージがある。クルーソンタイプの方が、使っているうちにガタが出やすいので、必ずしも間違いとはいえない面もあるが、きちんと調整されているならば、どっちがどっちという精度の違いはないと考えていい。それどころか、多くの場合ペグの狂いと思われているチューニング精度の問題は、ペグそのものよりも、ナットやブリッジコマの溝に起因していることが多い。溝の汚れを取り、面取りによりバリをなくせば、ほとんどの場合チューニングの問題は解決する。
バーストが発売された当時でも、すでにペグはいろいろ選択可能だったワケで、その中でクルーソンを標準装備にしたというのは、それなりに理由があることだ。ギブソンでもフェンダーでも標準パーツとして使っている。決してセコいペグではない。だから、安易な気持ちでパグを交換すべきではないだろう。

・テンションを味方に付ける
これはオリジナルバーストに限ったことではないが、日本でレスポールをプレイしている人の8割方は、テールピースを下げ切って、ボディーに密着させて使っている。しかし、それではテールピースの高さがアジャスタブルになっている意味がない。固定スタッドでいいはずだ。木ねじで留めてしまえば済むモノを、わざわざコストと手間をかけてまでアジャスタブルスタッドにしているからには、それなりに理由があるはずだ。一体なんのためにテールピースは高さが変えられるのだろうか。
それは、弦高に関わらず、テンションを調整できるようにするためだ。海外のレスポールプレーヤーの写真を見てほしい。ほとんどの場合、積極的にテールピースの高さをアジャストして自分好みのテンションを設定しているのに気付くだろう。中にはスタッドのアジャストだけでは足りないのか、ブリッジ兼用のバーテールピースのように裏から表へ、逆向きに弦を張ってさらにテンションを落としているプレーヤもいる。こうしてテンションを変えれば、当然音色が変わる。それだけでなく、奏きやすさも変わる。
ネック仕込み角度だ、ヘッド角度だと偉そうに主張する人がいる割に、どうしてここに気付かないのだろう。ネック仕込みが5度だとしても、テールピースを上げれば、ネック仕込みが3度でテールピースを下げ切ったモノより、テンションを下げることができる。ネック角度の音への影響が、弦のテンションの変化だと理解している人なら、矛盾に気付くだろう。そもそもテンションを調整できるのだから、ネック角度の問題は、操作性等はさておき、調整で対応可能なはずだ。
さて積極的にテンションの調整をするようになると、今度はテンションを換えることで積極的に音作りをすることもできる。.010を張っても、思いっ切りテンションを下げれば、指の操作性は.009と変わらないか、あるいはもっとソフトなニュアンスにすることができる。この場合、出てくる音は全然違う。.010の張りはあっても、細かいビブラート等のニュアンスでは、半音下げチューニングのように、よりデリケートな奏法が可能になる。この指先のニュアンスは、もともと微妙な音色コントロールが可能なオールドでこそ、より活かすことができるともいえる。

・チェリーサンバーストってどんな色
意外と勘違いしたり知らなかったりする人が多いのが、チェリーサンバーストってそもそもどういう色かって問題だ。文字通り色々にフェードして、一台ごとに違うフィニッシュになってしまってるので、みんな勝手に想像しているふしがある。元々のバーストの色、それはここ数年輸入自由化によってスーパーでも良く見かけるようになった、アメリカンチェリーの色だ。紫っぽい、えび茶ともいえるような濃い赤。70年代以降のリイシューレスポールスタンダードのフィニッシュは、概して赤みが強すぎたり、色が薄めであざやかすぎたりしている。最近のモデルでいうならば、83年頃の59ヴィンテージやギタートレーダーなどに塗られていた色がオリジナルに近い。
華やかだが、派手すぎず落ち着きのある、独特の赤だ。しかし、この色の塗料がフェードしやすかった。だからこそ、個体ごとの変化でいろいろなバーストの顔ができたともいえるのだが。レモンドロップになっちゃったヤツでは期待薄だが、ティーバーストぐらいに色が残っている個体なら、エスカッションやピックガードの下に、この色が残っていることもあるので、チャンスがあったら見てみよう。もちろんミントで色が残っている個体もある。58年製とかだと、比較的フェードせずに赤が残っているものもある。こういう個体は、いっそう赤が濃くなって、なんとも渋い色になっているが、アメリカンチェリーというニュアンスはつかめると思う。
さて、日本ではなぜかチェリーサンバーストというと、目にもあざやかなオレンジ系のヤツを思い浮かべる人が多い。確かに日本で長らく食べていたサクランボは、そういうオレンジ系の色をしているから、妙に納得してしまう。しかしこれではアメリカンチェリーでなく山形チェリーだ。確かに60年モデル、それも末期の塗料が変更されてからのヤツは、年と共にそういうオレンジ系になってくる。しかしこれはバーストの中では少数派だ。そこで一体どこからこういう勘違いが始まったのか調べてみた。
日本のオールドギター界の重鎮で、吉祥寺でその名もヴィンテージ・ギターズというお店を開いている高野さんが、70年代末にグレコがオールドコピーモデルを出す際にスーパーバイザーとして、そのノウハウを提供されたのは、業界では有名な話。その際、レスポールスタンダードのモデルとして、全体の仕様から色まで、高野さんの所有していた60年モデルがお手本になったという。だからグレコスーパーリアルシリーズは、60年モデルなのだ。ここまで種明かしをすればもうおわかりだろう。要はグレコしか見たことがなかったから、その世代にとっては、「チェリーサンバースト = オレンジ色 = 山形チェリー」となってしまったのだ。70年代初頭のJP's No.1を模した、EG-420の茶色と黄色のサンバーストみたいなニュアンスのバーストを求める人も多いと聞くし、擦り込みとは消せないモノらしい。そう思うと、コピーモデルも罪なモノだ。

・フェードカラーの秘密
バーストのビジュアル面の魅力としては、誰もがメイプルトップの杢と並び、その渋くフェードしたサンバーストの色調を挙げることだろう。その色調をパターン分けし、名前を付けて分類する人もいる。しかし、厳密にいえば同じトーンは二つとない。フェードの具合が、そのギターが置かれてきた環境や、使われてきた状態に依存してしまう以上、全く同じものはありえないからだ。分類しても無意味というべきだろう。それだけでなく、サンバーストのトーンは、新品のときから画一的でない。
サンバーストのキモであるグラディエーショントーンは、職人が手作業で吹きつけを行い、木肌の色合い等も考慮しながら、目分量で吹いていく。だから新品の状態でも、色が濃いモノ薄いモノ、色の帯が厚いモノ薄いモノと、千差万別だ。59年のES-335だが、サンバーストの黒い部分が濃く厚くて、まるで志村けんの「変なオジさん」の口ひげみたいになっているものを見たことがあるくらいだ。
おまけにレスポールスタンダードはスリートーンサンバーストだ。色を吹くだけでなく、影をつけるための印刷でいう「スミ版」に相当するラッカーも掛けてある。これで複雑なパターンがダブルになるわけだ。レモンドロップになっても、ニス塗りのようにほとんどグラディエーションが見えなくなるモノと、墨絵のようにうっすらとグラディエーションが残っているものがあるのは、赤が消えてしまっても、この影の色の濃さに元々違いがあるからだ。
さて、フェードカラーの中でも特殊なモノとして、タバコサンバーストの謎がある。いま俗に「タバコサンバースト」と呼ばれているトーンは、もともと「色版」も「スミ版」もの異常に濃い個体が、灼けて逆に色が濃くなって変色したものが多い。しかし、もともとES-335カラーのバーストが1ロット程度存在したという記録がある。現物は確認したことがないが、これが存在するとすれば、このギターこそチェリーサンバーストでに対して、タバコサンバーストと呼ぶにふさわしいだろう。この仕様は、バックの色が一般のバーストと違う。濃く変色したモノは、基本的には通常のチェリーサンバーストなので、赤いシーラーで目止めしたおなじみのバックだ。しかし、元からのタバコは、ダークバックでシリアルも黄色で打ってあるそうだ。一度お目にかかってみたいものである。




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