広告会社とインフォメーション・テクノロジー



今の消費者に向かって売れる商品を作るには、機能や理屈じゃなくて、音楽のヒット曲を当てるような、いかに「心にアピール」するかという味わいが必要です。機能や性能は、なけりゃ困るけど、あってあたりまえ。おまけに、商品が「必要だから」買うんじゃない(すでに、同等の商品は持ってるわけだから)、と来ては、「商品」そのものからいかにアタマをひねってもヒットは出ないですよ。

メーカーのコンシューマ・グッズからしてそうなのだから、もともと知的な付加価値を売っている広告会社の商品となるともっと大変です。そもそも広告会社の商品、とひとことで言っても、その中身はとてもひとことで言い切れませんよね。いろんなレベルの付加価値がある分、いろんなレベルの商品がある。

で最近、新しいインフォメーション・テクノロジーが、何か新しい商品につながるって勘違いしている人が多い。コミュニケーションビジネスとか言ってるからだろうけど、新商品のヒントやネタは、新しいインフォメーション・テクノロジーの中になんてあるわけがありません。ここのところを間違ちゃいけませんよ。

新しい商品やサービスをよりローコストで提供したり、より手軽に多くのクライアントに提供したり、という場面では、もちろん、新しいインフォメーション・テクノロジーが役にたつ場面もたくさんあると思います。だけど、クライアントがそれにお金を出してくれる「付加価値」は、新しいインフォメーション・テクノロジーの中からは生まれてきません。

情報のエントロピーを減少させる、「情報のネグ・エントロピー」を生み出す力は人間にしかありません。そして、どんなテクノロジーも、人間がより人間らしく、付加価値を生み出せる仕事に専念できる環境を生み出すツールでしかありません。

バカや凡才のやってることは、インフォメーション・テクノロジーできっと置き換えられることでしょう。しかし、それは付加価値を生み出している仕事でないからこそ、置き換えられるのです。ちょっとセンスのあるヒトなら、5分も考えればすぐわかることですよね。

テクノロジーが付加価値を生むか、生まないか。もうちょっと問題を整理してみましょう。そもそもインフォメーション・テクノロジーってのが無定義で、ひとによってどうにでもとれるのが問題ですが、テクノロジーということで、なんらかの技術と考えた場合、一般論をいえば、「付加価値を生むか生まないかは、時と場合による」としかいえないです。

どんなときにも、どんな場合でも価値を生むテクノロジなんてありません。そういう「技術」を探求するひとを、昔は「錬金術師」と呼んだとか呼ばないとか……。たとえば、電気通信が生まれて、生活や政治、そして戦争までカタチが変わったように、テクノロジが社会の構造変化を生むことは充分あると思います。電気通信がいろいろ役にたってることは、ぼくだって認めてますよ。ちゃんと本にだって書いたことがあるし。これについては、別に反対もなにもいたしません。

新しいインフォメーション・テクノロジーが登場し、それが広告ビジネスの構造を変え、そこに新しいビジネスチャンスが生まれると主張する人達がいます。まあ、これは仮定だから何でもいいですよね。文章としては、「今後、太陽が西から昇るようになれば……」というのが意味があるのと同じです。しかし、この飛躍がわからない。なんで、「登場すれば」が、一気に「構造を変え」「ビジネスチャンス」に一気につながるんでしょうね。「登場すれば」「構造が」変わるかどうか検討してみましょうなら、まだわからないでもないけど。

結局、こういう人達は、広告ビジネスの本質が何かをわかってないんですね。人間が進化してしまうんじゃなくて、その本質が変わらない以上、どんなテクノロジーが間に入ってもコミュニケーションのニーズそのものが変わるわけではない。広告って、人間相手のビジネスだし、マスメディアも、ソフトコンテンツという面で見れば、人間相手のビジネスなんです。

広告ビジネスの構造がほんとにわかってれば、検討するまでもなく、この面での社会変化は新しいビジネスチャンスは生み出さないことがすぐわかるでしょう。もちろん、既存のビジネスチャンスを若干拡大したり、その機会をとらえて広告会社自身が褌を締め直すようなことは、もちろんあると思いますが、これで「新しいビジネスチャンス!!」なんて叫ぶのは、買い被りすぎじゃないですか?もちろん、「士気を鼓舞」するためには、いろいろないいかたもあるとは思いますが、「ミイラとりがミイラになる」のはまずいのですよね。

禅問答にならないために、はっきりといってしまいますが、ある企業がどうやって生きてゆくか、とか、なにをもってビジネスチャンスにするかとか、いうことは、あくまでも内在的な、「その企業が本来的に持ってる、能力や強み」によって規定されてしまうのです。いくらおいしそうだからといって、その企業が持っているこういった「無形の資産」を活かせないようなものに手を染めても、うまくいかないのですよね。

自分は何者であり、どこに強みがあるのか。これを、客観的に知ったものが、生き残れるのは、個人も、企業もおんなじですね。

だから、となりの庭はきれいだな、と、すぐそっちにちょっかいを出すような企業は長続きしません。逆に、自分の土俵をきちんと決め、その中でいつも横綱相撲を取れることが大事なのです。

今持っている強み、今後さらに磨くべき強みは、「新しいインフォメーション・テクノロジ」がごときでどうなるものではないはずです。クライアント企業がなにに対して付加価値を感じ、なにに対してお金を払ってくれるのか、もう一度、本音のところをおさらいすべきときではないでしょうか。


(95/03)



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