オールドギターの魅力





30代以上の人は思い出してほしいのですが、70年代後半から80年代の初めって、たとえばストラトとか、どうしようもないくらいダメなのばっかりでしたよね。70年代後半から80年代アタマは日本製楽器の品質が飛躍的に向上してきた時期で、民生用(笑)ギターの価格破壊が起こったため、アメリカメーカーは量産品の品質を落として価格引き下げに走りました。もともとこういう大量生産のノウハウのないフェンダーやギブソンは、これによりストレートに品質の低下をきたしました。フェンダーなんて、これが元で事実上倒産してしまいましたよね。

この傾向は、実は60年代の後半から始まっています。アメリカではこの時期にバンドブームが起こり、64年からギターの出荷量が一桁増えて年間ン万台から、ン十万台にグンと伸びてるんです。エレクトリックギターの大衆化です。こうなれば、そこで起こることはわかっていただけると思います。生産性重視による、質の低下です。

それでもまだ60年代は、楽器作りの良心も残っていたし、いい材もまだ残っていた時代です。たとえば、ジミ・ヘンドリックスの愛機なんかいい例でしょう。とあるコレクターの人から、ジミヘンのつかってたストラトをひかせてもらったことがありますが、たしかに68〜9年ごろのとは思えないくらい太い音がしました。その音がでます(笑)。まあ、60年代末は、まだ選べばいいギターもあったということです。

ジミヘンの常用ギターは、ストックのストラトでした。それも楽器屋から買ったものです。ただ、卸にいって、ワンロット全部(200本ぐらい)入荷する度に、全部本人が試奏して、とにかく反応が良くて音が太いのを選んで買ったそうです。だから、左用ではなく、右用でなくてはいけなかったということです。左用で作ってもらっても、いい木が使われて、満足できる太い音がでるという保証はないわけですから。

そういうわけで、60年代末から段々市販のギターの質が低下してきました。一方、この時期はロックリボリューションの時期でもありました。自分の感情を表現する音楽としてのロックをプレイする人達が増えてきました。彼らにとっては、ギターはあくまでも自分のフィーリングのままになってくれる武器であって欲しいわけです。こうなると、ストックモデルではいまいち靴の上から足を掻く感じで、物足りません、その点、50年代に作られたギターは、このフィーリングがピシッと来ます。ここで起こったのがオールドギターブームです。

で、オールドギターはどこがすごいかというと、
1.鳴りがナチュラルでアコースティックな点
2.その音の特性が、ほとんどを木部の材質と工作の質に基づいている点
だということができます。

1.については、奏いた人が奏いた通りに鳴るということです。ビッグネームのギタリストが奏くと、アンプラグドのアコギのプレイでも、めちゃくちゃ太くて、歪み感のある、ブルージーな音色で鳴ります。太くて歪んだ音というのは、電気系で作るのではなく、もともと、そういう音でひいているからなんですね。

それもそのはずで、エントロピーの問題じゃないですが、太い音を細工して細い音にするのはたやすいですが、逆に細い音を太くすることはできません。無理してやると、電気的な、無機的な、ただ倍音が多いだけで、表情がない音になってしまいます。下手なアマチュアのメタルプレイですね。だから、気合いの入ったプレイをすればするほど、それがストレートに表現されるギターが欲しくなります。こうなると、オールドしかありません。

2.については、木は希少資源だということです。ギターぐらいの大きさでも、ベストの木取りができる大きさの材を取るには、100年近くかけて育った木でなくてはいけません。で、マホガニーだ、メイプルだという材質については、ギターだけでなく、いろいろな楽器に使います。実質的には、今世紀の前半で、優れた楽器用材はすべて刈り尽くされたといってもいいでしょう。事実、50年代のギブソンが使っていた材は、高級機種ではすでに新材では対応できないので、戦前からのストックを取り崩したものだそうです。レスポールなんかもそうです。これでは、勝てるわけがありません。

このように、木が違いますからね。50年代モノは。見ただけでもわかるし、生音が全然違います。よく「偽物」っていうけど、偽物でも「その音」を出すには、本物の木を使わなきゃならないし、そうすると、木を集めるだけで一台一万ドル近くかかりますからね。アメリカには、オールド材を売ってる店もあるけど、そこで買うとすると。それでも、いい部分は50年代に楽器に使われちゃった残りの材だから、クオリティーは若干落ちるし。

木部が良ければ、電気系は、あるレベルさえクリアしてれば、そんなに違いはありません。実際、ジミー・ペイジのレスポールは、ピックアップが何度も切れていて、70年代に当時のナンバードに交換されたり、ダンカンに乗せ換えたりといろいろ変化がありますが、別にだからどうだ、っていう違いはないでしょ。ワシントン条約があろうとなかろうと、オールドギターのボディーは、それ自体がもう、希少資源なのです。

考えてみりゃ、新材でもいいものは高いですよ。サドウスキーとかタイラーとかで、鳴りのいいのはやっぱり日本円で50万とか60万とかするけど、この値段って64〜5年のストラトと同じだからね。そう考えると、決して高くない。

この点、クラシック系の楽器はつらいですね。いい楽器といったら、桁が違うから。エレクトリック・ギター、それもソリッドボディーなら、歴史上最高の銘器でも、基本的には1000万程度だからね。一応、工業製品だし。オリジナルのレスポール・スタンダードだって、PAFの載ったヤツは、57〜58のゴールドトップで500本、58〜60のサンバーストで1500本、あわせて2000本以上は存在してるし、金積めば、手に入らないということはないぐらいには流通してるし。 GT-Rだ、NSXだ、って買える人には、そんなに高い買いモンじゃない。

クラシック系だと、そうはいかない。8桁台なんて、はっきりいって安いほうだもん。1000万のバイオリンなんて、「小僧、顔洗って出直してこい」もの。「へ」といえば、「へ」といわれてしまいますから。楽器って、そういうもんなんですよ。安物買いは、銭失いです。オールドギターには、それだけの価値とクオリティーがある。そういうことなのです。


(95/12/16)



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