田川線の3日間 その2(無意味に望遠 その14) -1973年4月5日-


今回は本当に、サブカメラでの遊びに終始してます。この時点ではメインはブローニーのカラーポジに移っちゃっていますし、ブロニカとSRT-101と二つ首から下げていますが、SRTの方にはサンズームの85-210を装着し、列車の速度が余りに遅いのをいいことに、いろいろ試行錯誤したカットを撮っています。アクティブにズームと使うことの面白さに気付いた頃なのでしょうか。いろいろ焦点距離を変えて、面白いカットを撮れるのがうれしい感じが伝わってきます。今回もぼくにしては珍しく有名な「お立ち台」からの撮影なので、どれだけ定番でないカットをズームで撮れるかというところに挑戦したのかと思います。まあさすがに17歳なのでまだ粗削りですが、着目したポイントはわかります。今から見ると、なんか親子の会話みたい。作品っていうのは、こういうところも面白いんですね。



まずはこの日の補機運用に入っている、後藤寺機関区の49619号機の単機回送。勾配としては下りなのですが、次の補機運用に備えて火床を整えているのか、石炭をくべている状態で、そこそこ煙を吐いています。線路の勾配に沿って、田んぼのレベルが段々上がっていく感じは、ジオラマ屋としては大いに心をくすぐられるところ。いつも言っているように、日本は山がちな国土なので傾斜のある土地がおおいのですが、人の手が入ったところは、フラットでもナナメでもありません。わずかな段差の積み重ねになっているのです。これが日本の田園風景を作るポイントです。フラットな平野に見えるところでも、農業用水が流れていくように、かならず段差が作られています。


上りも下りも、とにかくこの区間はゆっくり走ります。ズームを活用して構図を変えれば、一粒で二度も三度もおいしいカットが狙えます。ということで、同じ単機回送をもう少しひきつけた上で、アップで撮りました。刈り込んだ初春の田んぼ、線路の周りの枯草、用水路にかかる朽ちた木橋など、蒸気時代の日本の田舎を思わせるアイテムが満載で、今見てもなつかしいシーンです。このぐらい周りの小道具が揃うと、逆行の単機回送でも、けっこう絵になります。というより、このぐらいのシーンなら、ちょっとデフォルメすれば卓上に載るジオラマに盛り込むことができるので、そこに機関車1輌載っけるだけでもこのイメージは再現できます。


さらに引っ張って、今度は後方を確認しながら運転する機関士の表情にスポットを当てたカットにトライしてみました。もっと思い切ってアップにしたかったのでしょうが、焦点距離の関係からこれが限度だったようです。田川線は駅での解放ですから、ちゃんとタブレットを受け取って単機回送の列車として戻ってきています。しかしこの頃はまだ「走行中解放」で、サミットを越えたところで補機を切り離しそのまま戻ってしまう運用もありました。この場合は通票は本務機が持ったままで、いわば「本務機・列車と補機が二つに分かれても、列車としては一つ」というみなしで、当該区間はその列車が占有しているという解釈だったわけで、今から考えるととんでもない保安方式でした。


さて、今度も続けて同じお立ち台からの撮影です。下りの貨物列車がやってきました。機関車は行橋機関区の69614号機。しかしこの列車、セフが2輌。もともと下りは返空ですから、まさに空っぽの編成です。とはいえこういう枯れた景色の中に置くと、意外と絵になります。おまけに荷が軽いと惰行でもそこそこいい感じ。事実は小説より奇なりで、模型でこういう編成を走らせると、いろいろ文句を言う人もいそうですが、実物にはあるんですよ。これもジオラマとしてはいい感じですね。9600型式+貨車2輌なら、HOの米国型が入るお立ち台ケースなら充分入るので、そこにちょこっと景色を作ってしまえば、なかなか見栄えがするシーンを作れそうです。


この列車も、撮影のテストとばかりにしつこく追います。まずは見返りで機関車のアップ。九州ではおなじみのリンゲルマン煙色濃度計がキレイに写っています。これは九州のカマの特徴の一つですが、蒸気末期には実用として使っているものではなくなっていたようで、これ自体が煤けてしまっているものも多かったのですが、このカマはキチンと磨かれ、くっきりと4色のグレースケールが太陽光に輝いています。そういえば12oになってからはやってませんが、16番の時にはリンゲルマンスケールをちゃんと4つに塗り分けた模型を作った覚えがあります。煙室のATS発電機、公式側にちょこんとズレて取り付けられたコンプレッサーマフラー、3声汽笛など九州の96らしい装備が見てとれます。


今度は列車全体の見返りカット。撮影した時にはそんなに深い思いはありませんでしたが、今となってみると光線の具合も含めて、郷愁があっていいですね。特にある意味北九州の番長たる「セフ」を主役にした写真ってのはあんまり見ていませんので、そういう面でもグッとくるものがあります。九州の96といえば「中高(あるいは中中)」と呼ばれる、新製時空制車と同じ仕様にしたものが多く、一番しっくりきます。ここから先は個人的な思い出になりますが、標準デフ付きはパイプ煙突、デフなしは化粧煙突という組合せがなんかしっくりきます。小工デフ付きは、どちらもいいですね。


今回の最後は、おなじみのカーブをゆくキハ17を先頭とするディーゼルカー2連。これは、カラーで撮影せず、こちらのモノクロをメインで撮ったので、ズームは最短の85oで使っています。ぼくは気動車やディーゼル機関車も、構図のテストを兼ねて一応撮影しておこうというタイプだったのでワリと撮影している方だと思いますが、撮ってなかった人も多い分、実はけっこう貴重かもしれません。85oというのは、ぼくは鉄道写真では好きでよく使うレンズです。本当は35o版で75oぐらいのがあれば一番いいのですが、標準に比べてちょっと圧縮効果がかかるのが、鉄道写真では迫力になるからです。これは今も変わらないですし、模型写真でも取り入れています。



(c)2017 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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